供花一輪爽波の愛でし貴船菊
背景に咲いている花は貴船菊。「鞍馬の奥、貴船神社の境内は、うっそうとした樹林にかこまれており、高い崖によりそって、薄紫の貴船菊が、和泉式部の魂のような姿をして咲き乱れている。その風情が忘れられなくて、京都から持って来て植えてみたが、関東の土は肥えすぎているのか、頑丈な木のように育ってしまった。色も薄紫ではなく、白の八重で、関東では貴船菊のことを、秋明菊と呼んでいるわけがわかったような気がする。やはり植物も女性も、京都の土でなくては、あのように情趣にみちた姿に開花せぬのであろうか」(白洲正子『花』)。写真は鎌倉の「おんめさま」と呼ばれる大功寺の貴船菊。わたくしの鎌倉での「定点観測」のスポットで四季の花が美しい。また「おんめさま」と親しまれる安産祈願のお寺で、わたくしも戌の日に安産腹帯を買って祈願したところ、長女次女とも健やかに生まれたので猫だけれど「犬は安産」とおすがり申し上げました。わたくしはきっこさんが「鑑賞のお部屋」で波多野爽波をとりあげた御縁で爽波師系の結社に所属したので波多野爽波の掃苔にも参じておりそのとき貴船菊が爽波の好きだった花だと聞きました。時代劇俳優の黒川弥太郎の墓が隣にあったので時代劇大好き男のわたくしは喜んだのを覚えています。白洲正子が書いているように貴船神社は和泉式部の和歌がドラマチックで有名で「物おもへば澤の螢も我が身よりあくがれいづる魂かとぞみる」は彼女の和歌の白眉である。紫式部は和泉式部は歌や文はまあまあだが男にはだらしないと日記に書いていたが(笑)これだけの秀歌が詠めれば以て瞑すべしである。貴船は京都の避暑地で盆地だから夏の暑さは蒸し蒸ししてすさまじく、対して貴船は川に床を敷いて飲食して涼む「川床(かわどこ)」が有名だから市内より10℃以上低いので寒いくらいである。いや、ほんとの話。