渡辺の粉末ジュース夏の海
ハイヒール句会の平成15年(2003年)11月「立冬」句会から参加していたネット俳号のかげおさんは御自身で「影庵」というサイトを立ち上げていたベテラン俳人で岡田一夫名義で昭和62年(1987年)に旧字旧仮名の第一句集『月の庭』、平成9年(1997年)に第二句集『黄塵』を出しているが、令和3年(2021年)9月26日に病のため亡くなられた。桑原三郎代表の同人誌「犀」の編集人で埼玉県現代俳句協会副会長兼事務局長を務めていた。というのは亡くなられたからわかったことで、あくまでもわたくしには「ハイヒール句会」や「影庵句会」のかげおさんである。
このたび、馬場龍吉さんとかげおさんの遺句集のインターネット俳句の選出に協力することになり、去年の10月から取り組んで来たが、やっと昨夜遺句集の栞のわたくしのかげお句感賞が完成し、当面の任務は終わる。純粋なインターネット俳句出身者で結社や同人誌を経験した、長年、吟行句会の吟行頭取も務めたわたくしの立場から言うと、わたくし自身はほとんど会うことのないインターネット俳句の世界は人間関係の煩わしさがない分、とても住み心地のいい世界であり、純粋に俳句だけで付き合える俳句の桃源郷だと思っている。夏目漱石の『草枕』の教科書に載っているから誰でも知っている有名な冒頭の言葉がある。
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容(くつろげ)て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降(くだ)る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊(たっ)とい。
インターネット俳句は、ハンドルネームというネット俳号だけで、顔を合わせることも老若男女の区別もなく、自由に「しりとり俳句」(前のひとの投稿句の季語や文字を尻取りして俳句をつなげる遊びだが、初心者でも遊びながら俳句に親しめて俳句の瞬発力を養える)や兼題句会をいつでもどこからでも参加できて楽しめるので、ここに俳人が集い「寛げて長閑で心を豊かにする」ところがインターネット俳句という仮想現実の面白さだと思う。風と共に去ることが出来る手軽さもまた「軽み」だろう。
写真は片白草。半夏生とも云う。まだ夏至でもないのに六月の初めから咲いている、しかも花まで咲いているのを見たのは初めてである。一箇月早いんではと道行く人も驚いていた。