母さんの鼻緒うかべて線香花火
皆さん、こんばんは。
あたしの母さんは、線香花火が大好きです。
もちろんあたしも大好きなので、毎年、線香花火だけは東京の下町の職人さんが作った本物を買いに行きます。
職人さんの作った本物の線香花火は、一束ずつ薄い桐の箱に入っていて、とても高いですが、湿度によって線香花火が美しく燃えなくなってしまうため、湿度を吸引する桐の箱に入れてあるのです。
ちまたで売られている中国産の線香花火は、最初のパチパチという火花が派手で、その後、一気に火の玉がボトッと落ちてしまい、情緒も風情もありません。
でも、少々お値段は張っても、本物の職人さんが1つずつ愛情を込めて作ってくださった線香花火は、小さな火から徐々に佳境へと向かい、その後に「枯ゆく花」を思わせる「もの悲しい火花」が途切れ途切れに散り、それでも火の玉は最後の最後まで命を残してくれるのです。
まるで上質の短編映画を観たかのような起承転結、これが本物の線香花火の味わいなのです。
母さんもあたしも、この「本物の線香花火が見せてくれる短編映画」が大好きなので、普段の生活ではアレコレと節約ばかりしていますが、線香花火だけは高価な本物を買い続けているのです。