花冷えのムーミン谷に残るひと
わたくしの実家も津波で周りが更地になって風通しの良すぎる故郷となっておりますが、13年前海鳴りしか聞こえない崩れた書斎の中でラジカセで「アダージョ」をでっかい音で気兼ねなく聴いたら、サスペンス劇場のクライマックスに出てくるメロディだなと馬鹿にしていた曲が、あ、これは名曲だと感じたほど、気兼ねなく音楽を聴ける音の素晴らしさは孤独なるが故だと知って、「孤独を癒すものは孤独しかない」(アン・モロー・リンドバーグ)と実感したので孤独は嫌いではない、どころか集中力が異様に鋭くなり、分厚い長編も一気に読めるので喜んだほどで、親が住んでいるからこその故郷で、親が亡くなれば、墓参りに来るだけの土地に過ぎなくなる。あ、わたくしは長男なのでこの墓に帰ってくることになる。海から生まれた命は海へ帰るということか。生きているうちは住めば都と前を向いて歩くしかない。
写真は河津桜の蜜を吸う鵯。