春雨は都の花粉流しけり
>ユーミンのファーストアルバムは、あたしが1歳の時なので
俳句の知識にかけては古今随一なのでつい最初の師として見ているので親子ほど年が違うことを忘れていました。人生の「どんよりした地点」には不躾ながら笑ってしまいました。でも、号泣して歌っているきっこさんを思うと、1969年にペギー・リーが歌った「Is That All There Is?」という歌を思い出しました。きっこさんが生まれる前の話です。
東京の下宿で寝転んでラジオを聴いていると、往年の名歌手ペギー・リーの歌が流れました。わたくしは15歳の時に「セント・ジェームス病院」を聞いて英語もよくわからないのに涙が出て、以来この音楽がジャズの始まりだと聞いてジャズ番組を聴くようになり、ペギー・リーは「Black Coffee」「Fever」が有名なので知ってはいましたが、48歳という、当時のわたくしにはおばさんとしか思えない女性が、淡路のり子の「別れのブルース」を歌っているようなものかと思っていたら、ペギーが子どもの頃からの火事やサーカスや失恋の思い出話と、その合間のサビの歌に、英語は大意しかわからないのに、その歌い方の素晴らしさにそれだけで魅せられてしまいました。もう半世紀以上聴き続けているのに飽きることがありません。
英語の歌が聴き取れるひとは、アリソンさんが英語俳句からスタートしているからわかると思いますが、由紀さおりがPink Martiniと共演した日本語の歌詞での歌があるのでお聴き下さい。なかなか見事な訳と歌です。これを聴いたあとでオリジナルをお聴きください。一番下の猫髭の右矢印をクリックするとPeggy Leeのオリジナルが聴けます♪
由紀さおり&ピンクマルティーニ「Is That All There Is?」
ペギーの歌はその年のグラミー賞の最優秀女性コンテンポラリー・ヴォーカル賞を獲得しました。言わば、世界中の音楽ファンが人生の「どんよりした地点」でしみじみと聴いていた歌です。(*^▽^*)ゞ。
ところでこの歌の作詞作曲はさぞや著名なジャズの作詞作曲コンビだろうと調べたら、どひゃあ、ジェリー・リーバー&マイク・ストーラーではないか。ロック・ファンなら知らないファンはいないというエルヴィス・プレスリーの「Hound Dog」「Jailhouse Rock(監獄ロック)」、ジョン・レノンがカバーした1986年の映画『スタンド・バイ・ミー』の主題歌になったベン・E・キング「Stand By Me」、ビートルズもカバーした「Kansas City」はじめ名曲の数知れずでロックの殿堂入りの大御所コンビでした。
人生に幻滅する歌なので(トーマス・マンの岩波文庫から出ている短編集に「幻滅」というタイトルで入っています。火事とサーカスは原作のままですが、失恋の話はきっこさんのためにリーバー&ストーラーのコンビが付け加えたものです。噓だってば。でも、人生はそんなものです。ただし、俳句と出会わなければ。俳句という世界一幸せの目線が低い文藝に出会うと草萌えの中の犬のふぐりにも星の瞳を見出す喜びがそこかしこに溢れているのに気付き、人生の「どんよりした地点」に星の如くにまばたく眼差しが自分の中に育つのです。それはわたくしにとって「それだけのこと」に生きる喜びを感じさせてくれ、踊って酒を飲んで盛り上がる高揚に匹敵するのです。
Is that all there is? Is that all there is?
If that's all there is my friends, then let's keep dancing
Let's break out the booze and have a ball
If that's all there is
実はペギー・リーは実際に火事にあっておりこれは自分の人生を歌ったものだと思ったようで、身を入れ過ぎてしまって、火事、サーカス、恋、そして自殺を示唆するところで「If that's the way she feels about it why doesn't she just end it all? Oh, no. Not me. I'm not ready for that final disappointment.」(そんな風に思うのなら、いっそすべて終わりにしてしまえばいいのに。違うわ、とんでもない、わたしにはそんな覚悟はできていないわ)と歌っていますが、そのほうが自然だと実は彼女がリーバーの元歌詞を改竄しているので、オリジナルはreadyではなく、hurryです。つまり、「Oh, no. Not me.I'm not hurry for that final disappointment.」(あら、お生憎さま、あたしそんなに結論を急いでないのよ」と自殺は冗談よと笑い飛ばしているのです。ですから由紀さおりの日本語の歌の方が原詩に近いので、「三文オペラ」や「キャバレー」のようなお芝居の掛け合い歌のような構成なのでアリソンさんの「お芝居を見ているような気持ち」は正しいのです。実は作詞作曲したリーバー&ストーラーは1968年にLeslie Uggamsというミッチ・ミラー楽団に目をかけられていた18歳の黒人歌手のLP『What's An Uggams?』にバート・ヴァカラックと共に楽曲を提供していて6曲目に「Is that all there is?」が入っていて、ペギーよりも一年早いリリースで、こちらはオリジナル歌詞通り「Oh, no. Not me.I'm not hurry for that final disappointment.」でビッグバンドで元気一杯、とても自殺するとは思えない迫力のエンディングで、ペギーもレスリー・アガムスの歌い方もわたくしは好きです。18歳と48歳の人生の差が歌に現れているようです。
聞いているんだけれども、お芝居を見ているような気持ちになりました。