爆弾の如しラ・ホヤの新松子
サンディエゴ郊外のラ・ホヤLa Jolla海岸はスペイン語で「宝石la joya」という意味だそうだが、黄昏の海が本当に燃えるような息を呑む夕焼の豪華さや夜のセレブが行き来する高級店(馬具の店などあの銀の鞭で打たれてあのブーツの銀の拍車で蹴られたいという銀細工が惚れ惚れするほど美しかったし店員もゴージャスだった)や海に張り出たレストラン(魚料理はマヒマヒなど大雑把な味でさほど旨くはない)とか「スパニッシュ・コーヒー」だけは絶対味わったほうがいいコーヒーとリキュールと生ミルクを混ぜて青い火でアルコールを飛ばす演出も幻想的なカクテルとか、絶対にカミサンは連れて来られない高級店がぞろりと並ぶ全米一の高級リゾート地でハリウッドのビバリー・ヒルズよりも地価は高い。わたくしたちのチームは応援したヴェンチャーが大儲けしたのでVIP待遇で招待されたのだが、ドレスやタキシードに交わっての時間は正直窮屈だったので、翌朝カリフォルニア大学のサンディエゴ校のそばの海岸を皆で散歩したのだが、あれがエリザベス・テイラーとリチャード・バートンが共演した映画『いそしぎ』の磯鴫だと教えながら、風も強くなったしモーテルに帰ろうかと公園を横切った途端、何かが落ちて来てバシッと弾けたのでびっくりすると、なんと片手に余る大きさの松ぼっくりで、しかもずっしりと重く、これが直撃したら眉間が割れるどころではないと全員一斉に降下爆弾の中を逃げ帰った。アメリカはナスやキュウリが馬鹿でかいが、まさか松の木があんなに高くて松ぼっくりがあんなにでかくて重いとは知らなんだ。
>『誹風末摘花』
ちょっと誤解があるようなので付け加えると『誹風末摘花』ではなく、玉石混交の川柳から江戸時代の庶民の姿や暮らしをまざまざと見せてくれる註解の岡田甫の『川柳末摘花註解』(第一出版社、1951)が凄いのです。ノーベル文学賞をなぜやらないのかと書誌学者の谷沢永一がいきどおっていたのもむべなるかなの名著で、粋人、通人と言われた人物のバイブルでもあった。小津安二郎の映画『秋日和』の寿司屋の客で出てくる鎌倉の通人菅原通済のセリフは『川柳末摘花註解』を読んでいないとわかるめえで、猫髭嘘は言わない。千円のうちに『川柳末摘花註解』(第一出版社、1951)は買って読むべし。家宝になります。
昔きっこさんが朝日文庫の『ホトトギス雑詠選集』春夏秋冬全四巻だけ読んでればいいと言い切って、以来19年『ホトトギス雑詠全集』全44巻収集したのでいちいち丸の内の「ホトトギス」まで行く必要がないのは、きっこ師の言われたことだけやるのではなく言われた以上のことをやるのが弟子としては当たり前だったからで、口をすっぱくして子規の『俳諧大要』岩波文庫、山本健吉『季寄せ』文藝春秋二巻、『ホトトギス雑詠選集』朝日文庫全四巻は三種の神器だと言い続け、朝日文庫は絶版だったから、当時セットで千円から二千円前後で古本屋で買った句友たちは、今一冊9000円するのに(セットで3万6千円!)驚くだろう。買わなかった人は是非なし。
実は角川文庫から旧字旧仮名で同じ四冊本が出ていて、昔は二束三文だったが、朝日文庫の新字新仮名よりもわたくし個人は好きなのだが、まだ古本屋で1500円から2000円で一冊手に入るかも知れないから(5000円と足元を見ているところもあるが)安いうちに揃えるか、図書館で借りてコピーするなり、生きているうちに読んだほうがいいでしょう。読まなくても俳句は詠めるが読まないと深い俳句は読めないと思う。そうそう、『新歳時記 虚子編』(三省堂)は『ホトトギス雑詠全集』の合本のようなものだからこれも俳句の聖典のひとつでしょう。『ホトトギス雑詠選集』文庫版を買えなかった人には強くお薦めします。学ぶことに時と時節は関係ない。学びたいと思った時がその時です。