論語でジャーナル’25
第九 子罕(しかん)篇
1,子、罕(まれ)に利を言う。命(めい)と与(とも)に仁と与にす。
先生はめったに利益について語られなかった。もし語られたなら、運命に関連してか、仁徳に関連してかであった。
※浩→篇名の「子罕」は、冒頭の「子、罕(まれ)に利を言う」を短縮しています。その内容は、弟子たちが孔子の人格について論じたもの、孔子の自叙、孔子の絶望感、後世への畏れ、孔子の病気のことなど晩年の言動が多く記されていて「述而篇」の補遺とも言われます。
上の読み方は荻生徂徠によるものです。一般には、「先生はめったに利と命(天命)と仁徳について語られなかった」と読むそうですが、これには無理があるようです。なぜかというと、「利」と「命」について語ったのは『論語』で6例ですからもっともだとしても、「仁については60回以上語っている」、と貝塚先生が解説されています。吉川先生は、「利」も「命」も「仁」もともに大変重要な問題ですから、軽率には口にしなかったと考えられ、一般の説を採用されました。どちらも一理あると思います。
私は、「利」と「仁」から『孟子』の冒頭を思い出します。
孟子、梁(りょう)の恵王に見(まみ)ゆ。王曰く、叟(そう)、千里を遠しとせずして来たる。亦(また)将(まさ)に以て(もって)吾が国を利することあらんとするか。孟子対(こた)えて曰く、王何ぞ必ずしも利を曰わん。亦(ただ)仁義あるのみ。
孟先生が、梁の恵王に拝謁された。恵王は言われた。「老先生、あなたは千里の道を遠しとされずにおいでくだされた。さだめしわが国に利益をもたされること存ずる」。老先生が、かしこまって答えられた。「王さま、どうして利益のことなど仰せになるのですか。王さまはただ仁義のことだけお気にかけられたらよろしいと私は存じます」。
「子罕篇」に関連して、貝塚先生が挙げられている「利」と「仁」に関するフレーズを引用して列挙してみます。
「知者は仁を利とす」(里仁篇)
「君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る」(里仁篇)
「利を見ては義を思う」(憲問篇)
「利によりて行えば怨み多し」(里仁篇)
「小利を見ることなかれ……小利を見れば則ち大事ならす」(子路篇)
重要な問題だから軽率に口にしないということは、アドラー心理学でも「共同体感覚」は重要な概念ですから、軽率に口にしないと読み替えられそうです。野田先生は、ドイツ語の「ゲマンシャフツゲフュール」を「共同体感覚」と訳されましたが、先生はこの訳が嫌いだそうです。世間で一般に言われている「共同体」とか「感覚」とかの意味に解釈されるからだそうです。いっそ「X28」とか「P30」とか意味のわからない言葉のほうがよかったとおっしゃいます。これだと、何のことかさっぱりわかりませんから、本気で意味を考えるでしょう。「心理学事辞典」に掲載された、野田先生による解説を紹介します。
共同体感覚は、アドラー心理学の鍵概念のひとつ。共同体とは、狭義には現在と未来の一切の人類であり、広義には宇宙全体である。実際の「現実の社会」を言うのではない。このような意味での共同体への基本的な、①所属感、②信頼感、③貢献感を併せて共同体感覚と言う。これを持っている(というより、“行なう”)ことが心理的健康の条件であり、逆に、すべての精神病理はこれの不足ないしは欠如に由来する。したがって、アドラー心理学のカウンセリングを心理療法の基本的な目標は、共同体感覚の育成である。その具体的な方法として、①治療情況を閉鎖的なものではなく、グループ療法などの開かれた設定にすることを好み、②治療者・患者関係を常に相互尊敬・相互信頼にもとづくまったく対等の協力的交友関係にし、③絶えず他者への貢献の可能性を問いかけ、④社会適応を越えてより大きな全体との関係に注意を向けさせる、などの働きかけを行なう。
おー!なんと、日常生活の心得からカウンセリング&サイコセラピーにまで及ぶ、共同体感覚の概念が圧縮されているではありませんか。
逆に、最短の解説としては、「他者の関心に関心を持つ」ことだとも言われます。ただ、「他者に関心を持つ」のではありません。「他者の関心に関心を持つ」のです。
エーリッヒ・フロムの名著『愛するということ』に、愛に必要な4つの基本的要素というのがあります。これが何となく共同体感覚のイメージとダブってきます。
(1)配慮
(2)責任
(3)尊敬
(4)知
(1)『配慮』は『思いやり』で、思いやりとは、
・人に嫌な思いをさせない
・人を傷つけるようなことをしない
・人にやさしくする
・人のためになることをする
ということです。
この『思いやり』とは、自分に対して発生させるものではなく、『相手』に対して発生させるものです。そのため、『相手のためを考える』『相手の幸福を考える』ことができないと『愛』ではありません。
(2)『責任』とは、自分が行なったことの結果を引き受けることや、立場上負わなければならない任務や事柄のことです。
(3)『尊敬』とは『相手を尊重する』という言葉に言い換えることができます。
相手のありのままを見て、相手の考え、行動、相手の意思を尊敬することです。
(4)『知』とは『相手を知ること』です。