第十一話 歳旦三つ物
あたしは、これでも一応俳人のハシクレなので、年賀状には俳句を書きます。俳句と言うか、正確に言えば連句です。
とは言っても、普通のお友達に出す年賀状に書いても分かってもらえないので、俳句の先生や俳句仲間、連句仲間に出す年賀状にしか書きませんが(笑)
年賀状に書く連句の形式は、ニ種類あります。ひとつは『ニ句の付け合い』と言って、575の句に77の句を付け合わせるもので、形としては短歌と同じになります。
夫婦で出す年賀状であれば、ダンナさんが新春の季語を使ったおめでたい内容の575を詠み、それに奥さんが77を付けたりします。
例えば、
『元朝や生まれた年のワイン開け/雅治』 *図書館註:福山雅治。歌手だが俳優も『ガリレオ』『ラストレター』☆☆☆。
『初風呂の湯気揺れてゆらゆら/きっこ』
なんて感じです。
ひとりで出す場合は、有名なおめでたい俳句に、自分が77を付けたりしても構いません。
例えば、
『酒もすき餅もすきなり今朝の春/虚子』 *図書館註:子規選(24才)虚子(17才)。子規は下戸で一滴も呑めず(笑)。
『日記始も毒舌かもね/きっこ』
ってな感じです。簡単でしょ?
もうひとつの形は『歳旦三つ物(さいたんみつもの)』と言って、575の発句(ほっく)に77の脇(わき)を付け、そして575の第三の句で転じる、と言うものです。あたしは毎年、この歳旦三つ物を年賀状に書いています。
これも、全部自分で作ってもいいし、有名な句を発句にして、77と575を自分で付けてもいいのです。
ただ、歳旦三つ物には、ちょっと難しいルールがいくつかあります。
まず、発句は、なるべく「や」「かな」「けり」などの強い切れ字を使い、新春の歓びを詠うこと。次に、脇の77は、句意の上で発句を受け、句末は体言止めにすること。そして、第三の句は、発句と脇の世界から大きく飛躍する内容で、上5で切り、最後は「て」「に」「にて」「らん」「もなし」のいずれかで止めること。
季語は、発句と脇には新年の季語、第三の句には春の季語を入れなくてはなりません。
例えば、
『元日やすれ違ひたる富士額(ふじびたい)』
『鷹(たか)はいないがおせちには茄子(なす)』
『風光るスカートの裾なめらかに』
こんな感じです。これは、あたしの今年の年賀状に書いたものです。発句の季語は「元旦」で「や」で切っていて、脇の季語は「おせち」で、句末を体言止めしています。脇が発句を受け、「一富士二鷹三茄子」を詠み込んで、おめでたくしています。第三の句は、季語は春の「風光る」で、上5で切り、句末は「に」で止めています。句意は、発句と脇から大きく転じ、将来への展望を込めています。
ちなみに、来年の年賀状に書く作品は、元旦に、このHPのトップページにも発表しますので、興味のある人は見に来て下さいね。
*図書館註:ハイヒール歳旦三つ物は後日「きっこの句集」のお部屋にアップ予定です。