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スレッドNo.9

第七話 歳時記購入マニュアル

 俳句を始めるのに必要なものは、手帳とボールペンだけです。でも、俳句を始めて、だんだんに面白くなって来て、もう少し本格的にやってみようかな、と思ったら、手帳とボールペンの他に、国語辞典と歳時記が必要になります。
 歳時記と言うのは、俳句に必要不可欠な、季語の辞典で、入門用の簡単なものから専門的なもの、ハンディタイプのものから漬物石の代わりになりそうなものまで、各出版社から様々な歳時記が発売されています。値段も、千円以下のものから1万円近いものまで幅広く、バラエティに富んでいます。
 大きい書店に行くと、歳時記だけでも何十冊と並んでいて、初心の方が初めて購入する場合、どれにすればいいのか、とても困ってしまいます。書店の人に聞いたところで、全く知識の無いアルバイトが、入門用と書いてある歳時記を数冊手に取り、無責任に差し出すだけです。
 と言うわけで、今回の俳話は『自分に合った歳時記の選び方』をアドバイスしたいと思います。

 まずは、極意その壱、『入門用は避けるべし!』
 入門用と書かれている歳時記は、掲載されている季語の数が極端に少なく、季語の解説なども簡単で、ほとんど役に立ちません。それでいて、通常の歳時記と値段は変わらないのです。

 極意その弐、『ハンディタイプは避けるべし!』
 小型で女性のハンドバッグにも入るし、一見、便利そうに見えるハンディタイプのものも、やはり掲載されている季語が多数割愛されていて、いざと言う時に役に立ちません。また、文字が小さくて読みにくいのもマイナスポイントです。最近は、ハンディタイプでありながら、大きく見やすい文字のものも発売されていますが、小型なのに文字が大きいと言うことは、その分、季語の数や解説文などが割愛されているのです。
 ですから、ちゃんとした歳時記を持った上で、2冊目としてハンディタイプを買うなら構いませんが、最初の1冊としては理想的ではありません。

 極意その参、『例句を見比べるべし!』
 何冊かの歳時記で迷った場合、同じ季語をひいてみるのです。歳時記には例句と言って、それぞれの季語の解説のあとに、その季語を使った有名俳人の句が、例として掲載してあります。どんな句を例句として採用するかは、その歳時記を監修した俳人の判断によって決まります。ですから、いくつかの同じ季語のページを見比べてみて、自分の心に一番響いた例句を掲載している歳時記を選べば、他の季語の解説や例句なども、自分の好みに近いものが多く採用されているのです。

 極意その四、『新しい歳時記は避けるべし!』
 歳時記の巻末には、必ず、最初に刷られた年度と、現在のものが何度目に刷られたものなのかが、明記してあります。
 ほとんどの歳時記は、毎年見直され、新しい季語を加えたり、場合によっては古い季語を削除したりして、進化し続けています。
 しかし、ここ10年くらいのうちに初版された歳時記には、もともと古い季語がないばかりか、一般では認められていないようなものを季語として、いさみ足的に掲載しているものも少なくありません。これらの歳時記は、若い結社の主宰が監修し、自らの結社の会員達の句を例句として掲載したりしています。中には、句歴が数ヶ月しかないような会員の句も掲載してあり、読んでも勉強になりません。これは、結社の財政を支えるひとつの手段として、会員達から掲載料と言う名目で数千円単位の寄付をさせ、その見返りとして、下手な句でも例句として採用しているからです。
 ですから、最低でも、初版が20年以上前の歳時記を選ぶべきであり、もしも数冊の歳時記で迷った場合は、初年度印刷を見て、一番古いものを購入することをお薦めします。

 最後になりますが、あたしの愛用している歳時記を紹介します。何冊かあるうちで、一番使いやすく、内容も素晴らしく、ずっと愛用しているのは、文藝春秋社の『季寄せ』です。山本健吉さんの編集によるもので、初版は昭和48年、あたしと同い年です(笑)
この歳時記の良いところは、内容ももちろんですが、春夏の上巻と秋冬新年の下巻に分かれているため、持ち運びに便利で、吟行だけでなく、普段もハンドバッグに入れて持ち歩いています。もう10年以上も使っているので、索引を見なくても、何ページにどんな季語が載っているか、ほとんど暗記しています。何よりも大切な宝物で、一生使い続けるつもりです。

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