◆ ちちはは 双葉 ◆
ちちははの里に老いゆく木槿かな
穏やかや二百十日の母のこゑ
ゆつたりと喜寿を越えれば小鳥くる
色鳥や札を揃へる母の癖
温め酒酌む父の手の無骨なる
関鯖の目に秋空の澄みゆけり
幾たびも同じ話を酔芙蓉
コスモスや風呂を沸かすに父の薪
迫り来るアルツハイマー野分だつ
徘徊のスリッパぱたり月の舟
父の目の虚ろやちちろ鳴きとほす
母の手を引いてゆきたき花野かな
父の撒く水は甘いか赤とんぼ
冷害の稲にも色のありにけり
秋空や二本寄り添ふ大銀杏
老犬の鼻を埋める秋思かな