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◆ 時計草 ナナ ◆

   どうしても枇杷へ届かぬ脚立かな

   朝採りの緑るんるん松葉独活

   紫陽花や藍にけぶれる六甲山

   この路地の紫陽花みんな同じ色

   夏暖簾わけてひと言残しゆく

   母の忌や垣に大きな時計草

   ゆつくりと刻ながれゆく新茶かな

   宇治川をのぼる蛍のほーいほい

   潮風の運ぶ潮騒夕蛍

   熊蝉の揺さぶつてゐる朝かな

   梅干すや境目のなき空と海

   灯台を螺旋に消ゆる夏帽子

   備長炭つるして音色涼しかり

   この狭き空間が好きラムネ玉

   炎昼や鴉退治の網長し

   萬緑へくだる鞍馬の木の根道

   ペコちゃんのうふふふふふふ暑気払ひ

   ナイターのレッドスターは盗塁王

   紫陽花の彩を尽くすやゴッホ展

   葛切やダムにすつぽり夕日落つ

   蝉しぐれ納骨堂を閉ざしけり

   坂越ゆる二百十日の胡弓かな

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◆ 恋螢 かもめ ◆

   白薔薇のめくれて今朝を香りけり

   のほほんと生きて螢の夜となりぬ

   忘れもの探しに来たの螢川

   聴診器あてられてゐる螢の夜

   ひとこゑの夜を渡りくる河鹿かな

   夕ほたる女医の鎖骨の美しきこと

   源氏とも平家とも初螢とも

   恋螢愛し激しやうふふふふ

   いまここにわたしはゐます恋螢

   遠き日へさらはれてゆく螢狩

   ひとときを遊べや恋の螢どち

   すり抜けて螢の行方不明かな

   清らかな螢清らかなる光

   川音をはぐれて恋の螢かな

   螢火のぽつぽつぽつぽ哀れなり

   医師の目の語るなかれと螢籠

   草螢意地を張るのはもう飽きて

   宵螢ぽつん民家の灯のぽつん

   黒南風やおつゆに浮かぶてんてまり

   初蝉のまさしく蝉の一声ぞ

   日焼した腕にわたしの嫉妬かな

   みづすましけふの命をつなぎけり

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◆ 月の庭 きっこ ◆

   二日月厨房に火の立ちにけり

   万丈の煉瓦塀とて蛾眉の下     ※蛾眉(がび) 三日月の別名

   恋人を川へ流して月を待つ

   月の舟ゆらせる乙女心かな

   昔レイプされた空地や望の月

   ブルースの蛇行してゆく月夜かな

   満月へフィアットパンダ横づけす

   真つ黒な烏賊の沖漬月渡る

   肉じやがのほくと崩るる良夜かな

   逆上がりしてハイヒール満月へ

   月光へ匍匐前進してをりぬ

   月面をくるりとまはすウォッカかな

   盥には昨夜の雨水や月の庭

   月光にゴム手袋が干してある

   回廊のさまよふ月となりにけり

編集・削除(編集済: 2022年08月10日 23:54)

◆ 案山子さま かもめ ◆

   木犀やけふもひとりのひと間なり

   空白の日記や昨夜の月重く

   障害といふ二文字や曼珠沙華

   秋冷の片足でとる新聞紙

   ふと見れば吾ももへじや案山子さま

   案山子さま吾は一人で立てませぬ

   新米の炊けて乾燥注意報

   からつぽの湯呑転げて今年米

   笑ふことそれが大事とすいつちよん

   新走酌めばサタデーナイトかな

   弁当にりんごのうさぎ体育の日

   団栗や体操してる駐在所

   面一本竹刀の音や天高し

   点点で終はるメールへ月の雨

   錦木やひたいに白き濡れタオル

   解熱剤ゆるりゆるりと通草かな

   ゆめも青うつつも青や渡り鳥

   光差す雑木紅葉や咳ひとつ

   松毬の青く祝の届きけり

   さやけしやまためぐりあふ山のいろ

編集・削除(編集済: 2022年08月10日 23:46)

◆ ちちはは 双葉 ◆

   ちちははの里に老いゆく木槿かな

   穏やかや二百十日の母のこゑ

   ゆつたりと喜寿を越えれば小鳥くる

   色鳥や札を揃へる母の癖

   温め酒酌む父の手の無骨なる

   関鯖の目に秋空の澄みゆけり

   幾たびも同じ話を酔芙蓉

   コスモスや風呂を沸かすに父の薪

   迫り来るアルツハイマー野分だつ

   徘徊のスリッパぱたり月の舟

   父の目の虚ろやちちろ鳴きとほす

   母の手を引いてゆきたき花野かな

   父の撒く水は甘いか赤とんぼ

   冷害の稲にも色のありにけり

   秋空や二本寄り添ふ大銀杏

   老犬の鼻を埋める秋思かな

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◆ スターマイン 水星人 ◆

   耳の形あらはにスターマインかな  *star mine(複数の筒を連結させ数多くの玉を連続して又は一斉に打ち上げる花火)

   一定にずれたる音や揚花火

   ここだけの話三尺玉に消ゆ

   クレパスを削る子のゐて揚花火

   夏祭杓文字打打杓文字打
  (なつまつりしゃもじうつうつしゃもじうつ)

   かき氷くるぶしの透きとほりけり

   綿菓子の棒の甘さよ失恋よ

   パイプ椅子ぱたぱたたたむ夜店かな

   ヨーヨーに水の重さや火取虫

   手花火や馬穴の水の混濁す

   共にゐる不思議線香花火爆ぜ

   手花火の煙の中の鼻緒かな

   鼠花火ばらつと隙間埋めてみる

   手花火に細きらふそく果てにけり

   公園の石を焦がして夏の果

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◆ 八月十五日 きっこ ◆

   雨音の中に目覚むや敗戦日

   終戦日ギターの弦のぷつと切れ

   霖の真中にをるやネクタリン     ※ 霖 (ながあめ)

   白桃やタイヤの音は波の音

   ブラジャーを部屋に干したる敗戦日

   風呂釡のごぼと八月十五日

   敗戦忌チワワチワワのあとを追ひ

   終戦日空を見上げてゐるパンダ

   足抜いて輪切りにされる茄子の馬

   神棚に止まりし刻や龍の玉

   ゆふぐれのあさがほといふ脱力感

   終戦日猫に尻尾のなかりけり

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◆ 岩魚小屋 遊起 ◆

   秩父路に釣り人ぽつん濃紫陽花

   岩肌に沢の飛沫や花石榴

   淵の底ゆうらり渡る岩魚かな

   大血川瀬音深まり岩燕        ※大血川(おおちがわ)

   吊橋の笑ひ声揺れ夏帽子

   杉木立夏うぐひすを深くして

   ももんがの穴三つある寺の軒

   結葉や朱の剥げ落ちし夷様

   とぐろ巻く蛇の頭の瀬を向けり

   岩苔に後ずさりして岩魚小屋

   透きとほる手打ちうどんや岩魚小屋

   繍綿菊の紅ほつほつと胸に染む    ※ 繍綿菊(しもつけ)

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◆ 鮎の川 きっこ ◆

   鮎釣へ近づいてゆくミュールかな

   ピンヒール諦め脱ぐや夏蓬

   鮎釣におほきく撓む送電線

   溺れてるやうな釣師や雨燕

   鮎釣の胸を分けゆく流れかな

   とろとろと瀬へ放たれて囮鮎

   夕風の瀬を速めたる囮かな

   瀬がはりや釣師は竿を立てしまま

   鮎掛けて釣師の見せる金歯かな

   川風に今年の鮎はまあまあと

   七月の鮎と8月のキリンと

   自転車も梅雨の出水の名残りかな

   対岸の団地真白き送り梅雨

   七月の多摩川鉛色をして

   ひるがほや下校チャイムに納竿す

   三伏の川面に紅を塗りなほす

   をぢさんと風待月をまろびけり


   ※「8月のキリン」と言うのは、発泡酒の商品名です。

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◆ ハイヒールWEB句集 ◆ 目次

『ハイヒールWEB句集 』は『WEB句集』という名前で2004年(平成16年)6月26日に更新されました。「ハイヒール」管理人のきっこさん以外に、ハイヒール句会の会員である遊起さん、水星人さん、双葉さん、かもめさん、ナナさんの作品が掲載されました。「ハイヒール図書館」としてはこれもハイヒールの所蔵として、掲載順にアップいたします。いま読んでもどの句集も色褪せない素晴らしい輝きを放っています。どうぞお楽しみください。

        目次

     ◆ 鮎の川 きっこ ◆

     ◆ 岩魚小屋 遊起 ◆

     ◆ 八月十五日 きっこ ◆

     ◆ スターマイン 水星人 ◆

     ◆ ちちはは 双葉 ◆

     ◆ 案山子さま かもめ ◆

     ◆ 月の庭 きっこ ◆

     ◆ 恋螢 かもめ ◆

     ◆ 時計草 ナナ ◆

開始日 2003/03/14
更新日 2004/06/26

編集・削除(編集済: 2022年08月11日 00:14)
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