【きっこ 真夏の百句】
あくまでも伝統俳句の厳しいルールを厳守し、その限界点で遊び続けるあたしの俳句を楽しんでいただけると幸いです。それでは、どうぞ♪
猫連れて夏への扉ひらきけり
雨雲の向かうに夏の来てゐたり
夜遊びのミュールぱたぱた走梅雨(はしりづゆ)
クロネコとペリカンの来る梅雨晴間
青葉して振つた男にあつかんべ
白南風(しらはえ)や西湘バイパス渋滞中
サーファーのぽつんぽつんと土用かな
土用波カットバックで捌きけり
ケムンパスニャロメ土用のウナギイヌ
黒猫の道へ溶けゆく土用かな
サンダルをぶら提げてゆく防波堤
大胆な水着でテトラポッドへぴよん
ペディキュアの覗く日傘の影の縁
引き潮にだんだん埋まつてゆく裸足
オンショアの午後から水母(くらげ)注意報
母傘寿娘五十のビキニかな
ココナツの香る真夏のコパトーン
離岸流サメの浮輪が沖へ沖へ
大波のビキニの群れに崩れけり
犬掻きの犬が上陸してぶるん
そらいろとみづいろのあひ泳ぎけり
しあはせな裸足ふしあはせな裸足
溺れてるやうなあいつのバタフライ
抱きしめてゐるTシャツの濡れしまま
青簾(あおすだれ)おろせばしましまのあたし
吃水の危ふきクリームソーダかな
ストローにソーダの泡のまつはれり
ソーダ水の中ユーミンの通りけり
ふりほどきたきことあまたダチュラ咲く
コカコーラ越しに受胎を告げらるる
くちびるが「好き」と動いて熱帯魚
緋目高(ひめだか)のことが気になる黒目高
金魚藻に金魚のあぶくひつかかる
くちづけの余韻じんじん熱帯魚
姉さんが欲しいと泣いた金魚かな
水中花ゆれて海辺の町中華
冷やし中華始めました食べました
曼荼羅となりゆく冷やし中華かな
かき氷さくりと恋の終はりけり
ホームランバー二本目も空振りで
香水に波打つてゐる感情線
香水を纏ふや夜の加速する
短夜やレゲエで踊る猫のゐて
短夜の見えない翼広げけり
ぬばたまの闇のどこかで仔猫がにやあ
ピカチュウを描く打揚花火かな
湯けむりのやうなる金魚花火かな
玉屋鍵屋松屋吉野家遠花火
告白のスターマインの始まりぬ
対岸の彼女へスターマインかな
泡盛に近づいて来る低気圧
スコールへスーパーカブで突つ込めり
夕立や透きとほりたるラブホテル
島唄に涼しき足の運びかな
泡盛に風の乾いて来たりけり
鮎釣へ近づいてゆくミュールかな
鮎釣の胸を分けゆく流れかな
鮎掛けてきらり釣師の金歯かな
川風に今年の鮎はまあまあと
をぢさんと風待月をまろびけり
死んでると思つた蝉がじじじじじ
とうすみのちぎれるほどに交(つる)みけり
かなぶんの裏を観察する網戸
瓜蝿が瓜蝿を呼ぶ雨催(あまもよい)
とうすみの草月流に休みをり ※「とうすみ」は「糸とんぼ」の別名。
防砂林ぬければ海の家ばかり
今どきの海の家ですロコモコ丼
素麺のからんからんと来たりけり
お見事にぼつたくられて海の家
扇風機うちひしがれてをりにけり
桐箱の五色の線香花火かな
風裏を探す線香花火かな
母さんと線香花火の火を分かつ
お互ひを照らす線香花火かな
恋果ててぽとり線香花火落つ
声援にでんと麦茶の大薬缶(おおやかん)
どの猫も影は黒猫鉄線花
夕焼けに口開けてゐる清掃車
次々と軍手干しゆく日焼の手
レフ版を畳んで夏を閉ぢ込める
へび花火ねずみ花火に片思ひ
蛇花火地を這ふ煙からによろり
蛇花火鼠花火へ伸びゆけり
へび花火ねずみ花火に振られけり
手花火やいつかひとりになるあたし
接岸に手間取つてゐる納涼船
マイトガイ笑ふ納涼映画かな
夕凪や父の背中の昇龍
終戦日空を見上げてゐるパンダ
パンダ舎は冷房完備なんだとさ
助手席の西瓜にシートベルトかな
かぶとむし西瓜のにほひしてゐたり
髪に挿すガリガリ君の当たり棒
水着より滴る夏の名残りかな
止まらないHa~Ha永ちやん未だ夏
八月のライカの中の少女かな
噴水をとほくに聞いてゐたりけり
青鷺(あおさぎ)の翼をひろげゐて飛ばず
泣き顔に浜昼顔のひらきけり
終バスは空気を乗せて夏の果
本当に暑い毎日ですが、あたしの俳句が南部風鈴の透き通った音のように、一服の清涼剤としてあなたに届いたのなら嬉しく思います。