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スレッドNo.68

下五の処理と切れについて

投稿日: 2月 9日(月)04時13分37秒

爽波の句の特徴のひとつとして、下五の独特の処理があげられます。

  川に佇つ五月雨傘の裏に蛾が  爽波
  天高しやがて電柱目に入り来
  帰り花この晴天の果ては雨
  蓮見茶屋ドーンと遠き音は何
  避寒して松喰虫とはどんな虫
  紫陽花に吾が下り立てば部屋は空ら
  伐りし竹ねかせてありて少し坂
  干す蒲団ふり廻したり芦を前
  北風に棕櫚が葉鳴らすのみの窓
  翅震ひながら柱を攀(よ)ぢゐる蛾
  ちやんちやんこには猫の爪かかり易
  繕ひし垣より走り出でて湖
  そこらじう落ちゐる厄を嗅いで犬
  戸あくれば冬空に帽とりて客

これらの句の場合は、どの部分に切れを用いているかが重要です。
分かりやすくするために、強い切れには「//」、弱い切れには「/」を入れてみます。
そうすると、次の4つのグループに分けられます。

  【A】
  川に佇つ//五月雨傘の裏に蛾が/
  天高し//やがて電柱目に入り来/
  帰り花//この晴天の果ては雨/
  蓮見茶屋//ドーンと遠き音は何/
  避寒して//松喰虫とはどんな虫/

  【B】
  紫陽花に吾が下り立てば//部屋は空ら/
  伐りし竹ねかせてありて//少し坂/
  干す蒲団ふり廻したり//芦を前/

  【C】
  北風に棕櫚が葉鳴らすのみの窓//
  翅震ひながら柱を攀(よ)ぢゐる蛾//
  ちやんちやんこには猫の爪かかり易//

  【D】
  繕ひし垣より走り出でて//湖/
  そこらじう落ちゐる厄を嗅いで//犬/
  戸あくれば/冬空に帽とりて//客/

このうち、AとBのグループは、通常の名詞止めと同じ、Cは一物仕立の名詞止めや「かな」止めと同じであり、下五の処理は独特ですが、句型としては一般的です。
しかし、Dのグループは、最後の一文字の手前に切れを用いると言う変化球を使っています。
句型としては「句またがり」と言えますが、一般的な句またがりと違い、下五の中に切れを用いて一文字の名詞で止めると言う、とてもオリジナリティーのある句型なのです。

最近の現代俳句は、散文的に感じるものが多いですが、それは、口語体を使っていたり、流行語を使っていたりするからではありません。
俳句の命である「切れ」を軽視しているから、散文的に感じるのです。
ひどいものになると、切れが無い作品を「俳句」として発表している作家もいるほどです。

まずは、定型に収まるキチンとした切れを学ぶことが基本ですが、ある程度、力がついて来たら、爽波のように、オリジナリティーのある切れにチャレンジしてみるのも、自分の表現の幅を広げることにつながるのです。

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