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スレッドNo.109

Lovers (trésor番外編)



「バラードだな。」

デモ曲のメロディを耳にした矢崎は、意外そうな表情を見せた。

「どう思う?」

龍の問い掛けに、矢崎は暫く音へ意識を傾ける。

「…なるほど。面白いんじゃないか。」
「恋愛系の歌詞を乗っけたい。」
「ほう。大谷龍が恋愛バラードねぇ。」
「作詞を頼めなそうなアテを探してる。」

にやにやとする矢崎をよそに
無表情を決め込んだ龍は淡々と話を進める。

「そりゃ何とかなるが…誰が作曲したんだ?」
「俺だよ。デモの音録りはFLUIDITYの連中に手伝って貰った。」
「お前が、作曲したのか?」
「ああ。出来ればあいつらのフェスに間に合わせたい。」
「フルフェスか。確かにそこで初披露すりゃ話題になるな。…わかった、どうにかしよう。」
「さすが矢崎さん。頼むよ。」
「しっかし…」

煙草に火をつけ矢崎が、まるで品定めするような視線をテーブル越しに寄越す。

「ニヤけすぎだぜ。おっさん。」

あえて、おっさん呼ばわりするのは
龍のささやかな抵抗だ。

「大谷龍が恋愛バラード。しかも、自ら作曲までねぇ…。」
「フェスのシークレットゲストで出演して、手土産なしじゃつまんねぇだろ。」
「まあ、手土産はあるっちゃあるがな。」
「…火野か?」
「そうだ。」

FLUIDITYデビュー5周年記念秋の音楽フェス『フルフェス』。
厳密には、彼らはメジャーデビューして6年が経つのだが、バックバンドとしてではなく
セントラルレコードから単体デビューして5周年という計算らしい。

「火野は、正式にフルフェスの出演が決まったのか。」
「当然だ。デビューシングル発売2週間でCD売り上げランキングトップの大型新人だぞ。」
「FLUIDITY と接触させて大丈夫なのか?あいつらとはかなり面識あるだろう。」
「それはお前が一番わかってるんじゃないか?龍。」
「どういう意味だ?」
「遊の変化だよ。少なくとも、お前にラブバラードを作曲させるぐらいの女の魅力が、今の遊には備わってるってことさ。」
「……。」

これ以上話しても無駄な気がして
龍は、応接ソファーから立ち上がった。

「おい、龍。」

背中に掛かった声の、先程とは違う真面目な響きに、龍は足を止めた。

「分かっていると思うが……こちらが望まないスキャンダルは、困るからな。」
「…ああ。」

振り返らずに、龍は応えた。


******************************************


(なんて言うんだろうな、こういうの。)

ライバル心と言われればそうだろう。

5年ぶりに会った遊は、成長していた。
歌手としても。女性としても。
知らなかった一面が次から次に見えて来て目が離せない。

昔、同じ土俵で張り合った同志に
これだけのポテンシャルがあるとしたら
自分はどうなのか。
挑戦出来る何かが、まだ残されているのか。

(負けたくねぇな。)

パワフルで熱く、スタイリッシュな歌が売りとも言える龍が
バラードを歌ってみたいと思った一番の理由はそれだった。

けれども、
作曲中に浮かぶのは遊の姿だったし、作業の手を止めて、ふと遊のことを考えると自然とメロディが浮かんだ。
ライバルに勝ちたいのに、ライバルのことを想って作曲する。そんな自分を滑稽に感じながらも作り上げた曲。
だがそれは、いざ完成してみると驚くほどしっくりきた。

(とりあえず、詩のイメージは伝えとかないとな…)

廊下を歩きながら
今は新曲に集中するんだと、龍は
自らの思考を仕事モードに切り換えた。

「り…大谷さん。」

遠慮がちに呼んだ声の主を振り返る。
そこには、たった今の決心を台無しにしてしまう存在が立っていた。

「…おう。矢崎さんと打ち合わせか?」
「さっき、終わって…大谷さんが見えたから、その…。」
「来いよ。」
「え?」
「フルフェス。出るんなら、俺とも打ち合わせが必要だろ。」


実は、普段矢崎が使用している部屋は
本来なら龍…代表取締役のものだった。

しかし、龍が歌手復帰してから物理的にプロデュース業をほぼ行えなくなり
現在は申し訳程度に、資料や重要書類に目を通す時だけ
当初矢崎が使っていた部屋を使用している。要は部屋の主が入れ替わったのだ。

「失礼します…。」
「入れよ。ここなら気持ち悪い敬語も使わなくて済む。」
「気持ち悪いってなんだよ。」

人がせっかく、とぶうぶう言っている遊をいなしてソファーへ座らせる。
社長室とは部屋の面積が違う分
応接スペースも非常に簡易的なものだ。

「ランキング1位だってな、CD 。」
「うん。CMが流れ始めてから売り上げが急激に伸びたらしい。」

『trésorな瞬間』

某有名カメラメーカーが
デジカメ新CMのイメージソングにちなんで、そんなキャッチコピーをつけた。

「ああ。観たよ。」

様々な人の様々なショットが
フォト加工で映し出されていくCMには
例のミュージックビデオで
遊が微笑んでいる横顔も、セピア調の一枚として含まれていた。

「綺麗だった。」

ソファーに座る遊の横に立ったまま
龍が素直な感想を述べると、びっくりした顔がこちらを見上げた。

「なんだよ。」
「き、綺麗って…何が?」
「お前が。撮影の時も言ったろ。」
「え、でもあれは撮影だから、
 その場のアレで言ってるのかと…」

みるみる赤面した遊は、俯いてしどろもどろ何か言っていたが
最後は、小さくありがとう、と呟いた。

「どういたしまして。」
「それで、さっき聞いたんだけど…」
「うん?」

龍は、遊が座るソファーの背もたれに軽く腰掛けた。

矢崎に釘を刺された以上
個人的に会える時間は限られている。
ならば、少しでも近くに居たいと思った。

「龍が、バラード歌うって。」
「まだ予定だけどな。」
「意外だった。今までの歌と全然イメージ違うから。」

遊は、俯いたままだ。
おろしている髪がサラリと流れて
白いうなじがあらわになると
まだ桜色にそまっているその首筋に目を奪われた。

「…なんでだと思う?」

遊の髪に指を絡める。
柔らかくて、手触りの良いそれを
優しく指ですきながら
わかるはずのない質問をしてみた。

「わ、わかんないけど…」

龍の仕草に、明らかに動揺はしているが
遊は決して抵抗はしない。

「でも、聴いてみたいと思った。
 それに…」

ようやく遊が、顔を上げる。

「負けたくないって思った。」

闘争心と、緊張と、高揚がごちゃまぜになった遊の表情。
もっと見ていたかったが、それは叶わないと知っている。

「……!」

唇の温度が、同じになる。
二人の時間が甘く止まった。

ゆっくり離して、反応をうかがう。
遊は、少し驚いていたが
やがて込み上げる何かを噛み締めるように口許を綻ばせる。
その満たされた微笑みが、とても綺麗だと思った。

「もう1回、していいか?」

聞いた癖に、返事を待たずに口付けた。

髪に触れていた指で
遊の顎を軽く持ち上げ、親指で緩やかに口を開かせる。

「ん、」

龍の舌を受け入れたとき
鼻に抜けるような声を遊が漏らした。

「あんまり色っぽい声出すなよ。」

一度、唇を離して二人の間に低い囁きを落とす。
密室とは言え、
この手の声は耳に拾われやすい。

(そんな声を出されたら、俺も困る。)

「だって…無理だよ、そんな……」

小さく抗議する遊の潤んだ瞳を見ていると
廊下を警戒しなければならないのに
また濃厚なキスを仕掛けてしまう。

「ん…ぅ…っ」

(ヤバイな…。)

ある程度で自重するつもりだったのに。
止まらなくなりそうな予感を
焦りと共に感じ始めた、そのとき。

『龍、まだ居るか?』

矢崎の声が、ドアの向こうで聞こえ
二人はハッとする。
慌てて身を離し、龍は立ち上がった。

「…ああ。どうぞ。」

意識して落ち着いた声を出すが
何となく背中でソファーを遮ったのは
遊が落ち着く時間を与えてやりたかったからだ。

ドアを開けながら矢崎が喋り始める。
少しばかり興奮気味のようだ。

「さっきの新曲の件だがな、作詞家の候補をピックアップしたぞ。」
「すげー。仕事はやいっすね。」

数枚の資料を手にした矢崎の視線は
まだこちらに向けられていない。

「早速なんだが、お前にも意見を…」
「それじゃ、お邪魔しました!!」

矢崎が顔を上げると同時に
脱兎のごとく遊は部屋を出ていった。

「おー。またな。」

たぶん、もう聞こえてはいないだろう背中に一応声を掛ける。

「……龍。」
「なんでしょう。」

廊下の彼方に消えていく小さな背中を眺めた状態で、矢崎が尋ねる。

「あいつと、ここで何してた。」
「打ち合わせです。」

眼鏡のフレームを指で押し上げて、矢崎は深い溜め息をついた。

「打ち合わせで、顔を真っ赤にして半泣きになるのか、あいつは。」
「まあ、白熱したんでね。」

平然と答える。
矢崎は一旦廊下を確認し、部屋のドアを締めると龍に向きなおった。

「俺がさっき言ったこと、覚えてるか?」
「望まないスキャンダルは困る、でしたっけ?」
「そうだ。」

矢崎の険しい顔から目をそらすことなく
龍は堂々と言い放った。

「つまり、スキャンダルにならなきゃ
 いいんですよね。」
「お前…そりゃ極論だ。」
「気を付けます。バレないように。」

そこまで言って
龍は体を折り曲げ、矢崎にきっちりと頭を下げた。


「開き直るなよ…。」


矢崎は、情けない声を出した。

礼を尽くしているように見えて、
要は『認めろ』と言っているのだ。
二人の関係を黙認して、余計な口出しはするなと。

「で、新曲の話でしたね。」

頭を上げた龍は
すっかりいつものペースに戻り飄々と
仕事の話を始めた。

矢崎は、やや複雑な表情をしていたが
何を悟ったのか、もう異議を唱えるようなことはしなかった。





END

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うわぁぁぁい‼ぺこさんの新作がっ‼
ありがとう ありがとう ありがとうございます(*^^*)
万里さん 妄想部の皆々さまと またキュンキュンできる〜

なんかこのちょっとずつ近づいてゆく距離感とドキドキがたまりません…まさに trésorな瞬間…はぁぁぁ(*^^*)
このCM どなたかホントに制作お願いします‼

龍のバラードもきっとめちゃめちゃヒットするんだろうな〜

次回の フルフェス(笑)も 楽しみに待たせていただきます‼

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たまおさん

キュンキュンありがとうございます!!

掲示板でちゅっちゅする二人を
書き逃げして許されるものか
冷や汗タラタラではございますが
もう妄想が止まらんのです(^o^;)

ちなみに、今回の妄想タイトルが龍の
新曲タイトル…の、つもりです(*^^*)

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ぺこさーんっ

キュンキュンして萌え死にしそうなんですけどーっ!(笑)
周りに秘密の恋人って、なんか萌えますね〜(♡´艸`)
人前では新人として龍に敬語で接する遊ちんが可愛いです。

次はフルフェスですか!?(笑)
バラードを歌う龍も恰好いいんだろうなぁ...
楽しみにしてます♪

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万里さま
毎度の書き逃げ恐縮です(。>д<)

龍のバラード妄想、イメージソングは
皆様ご存知の石原慎一様でございます。
最近またヘビロテで聴きまくりです(笑)

私も、そしてきっと部員の皆様も
万里様のホムペ復活、楽しみにしています(σ≧▽≦)σ

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ぺこさん♡ 
私もキュンキュンドキドキが止まりません(≧∇≦)
龍の新曲、歴史的名曲の予感ですね。
で、遊ちんは自分へのラブバラードなのにライバル心なんか燃やしたりつつ…(妄想進行中)

フルフェスめっちゃ行きたいです〜♪

万里さんのHP復活と共に、楽しみいっぱいです(*^^*)

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こりすさん

キュンキュンドキドキ嬉しいです!

番外編と書きつつも、
続きものになっている言い訳としては 
trésorが主に遊サイドのストーリーで
Loversが龍サイドのストーリーという
違いのみだったりします(^^;

ホムペ復活、楽しみですよね〜(*≧∀≦*)♪ 

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