フィルター
桂木俊は、無性に珈琲が飲みたかった。
けれども、向かった先に人影を見つけて
ふと足を止める。
(遊…?)
テーブルにぽつんと置いてあったそれを
遊が、つん、と人差し指でつついている。
(何してるんだ?)
俊がその場に居合わせたのは偶然だったが
このあと繰り広げられる光景を
終始、声を掛けることもせずに
しげしげと眺めていたのはある意味必然のことだった。
セントラルレコードの休憩スペースには
自販機と簡素なテーブルがふたつ。
奥に設置された喫煙ブースには誰もおらず
どうやら、俊が見ていることに気付いていない彼女は
一人きりだと思い込んでいるようだった。
(サングラス…?)
遊がつついていたのは、オーバル型のサングラス。
ブラックのリムに縁取られたレンズカラーはグレーで
カジュアルなデザインだったが
高級ブランドを思わせる質の良さは
遠目から見ている俊にも分かった。
(あ、キョロキョロしだした。見つかるかな?)
別に疚しいことはないのに
何となく物陰に隠れてそろりと俊は様子を伺う。
(どうするつもりなんだろう。)
置き引きの現場にでも遭遇したような
不安を覚えた俊だったが、カタン、と
買ったばかりと思われる炭酸飲料の缶を置いて
サングラスを手にする遊の口許が綻んだのを見て、
その持ち主が誰なのかが分かってしまった。
(なるほどね。)
昔、遊が後生大事に持っていた物を思い出す。
成り行きとは言え
一瞬だけそれを俊が所有していたこともあった。
勿論、あれは、当時のサングラスとは違う物だが
『龍のサングラス』に対する遊の思い入れが
相当深いものだったことはよく知っている。
(に、しても。今は本人が傍に居るだろうに。)
そんな所有物に執着しなくとも
現在は手の届く所に当人が居て、
互いに想い合えている筈だ。
それとも。
(龍にあんまり、大事にされてないとか?)
遊は、静かに目を閉じてサングラスを胸に抱き込んだ。
それはそれは愛しそうに。
二人とも忙しくて頻繁に会えないとは言え
付き合って推定一年にもなろうという恋人が
あんな健気な真似するなんて
よっぽど惚れてるか、冷たくされてるかのどちらかだ。
余計なお世話は百も承知で
俊の頭に心配が過っていたところに当の彼氏が現れた。
慌てて身を隠すこと本日二度目。
俊がいる反対側の通路から来た男は、
何やら遊と話し始めたようだが、会話までは聞き取れない。
(まあ、盗み聞きまでするつもりはないけど…。)
とはいえ、心配やら好奇心やらが抑えられず
そろっと顔を覗かせ二人の観察を続行する。
忘れ物を取りに来たのであろう龍に、
遊がサングラスを差し出しているところだった。
(ああ、渡しちゃうのか。)
すると、
龍は、一度受け取ったサングラスのテンプルを
遊が身に付けているトップスのスクエアネック部分に
スルリと差し込んだ。
(え?)
向かい合う二人を横から見ている限り、
遊の顔もアテレコするなら俊と同じ『え?』という感じで。
不思議そうに男を見上げていた。
『やるよ』
龍の口が、確かにそう動いた。
(さては、遊のさっきの表情を見てやがったな。
カッコつけやがって、相変わらずヤな奴だ。)
と、俊が私怨満載の感想を抱いている間に
遊は、託された胸元のそれにそっと手を触れて
こぼれるような喜びを浮かべた。
その笑顔は、
この上なくいじらしくて、本当に可愛かった。
(でも、良かったな。遊。)
だが、時間がないのか、龍はそのまま踵を返した。
(いやいやいや、
何でそこで未練なく立ち去れるんだ?)
彼女にあんな可愛らしい顔させて。
そんな状態で置き去りにして。
そりゃ忙しいのかもしれないが。
ちょっと傲慢過ぎやしないか?
と、俊が勝手に憤りを感じていたのが通じたのか。
(あ、戻って来た。…って、おい!)
龍は、佇む恋人の唇にキスをした。
遊が目を瞑る間もないほどの電光石火だったが、
誰が見ているかも分からない共有スペースで
身を屈めてご丁寧に角度もつけて
ちゅっというリップ音が聞こえてきそうな、
何ならハートマークのひとつも飛んできそうな、
そんな口付けを、人差し指で顎を捉えた唇に落として
今度こそ去って行った。
(……カッコつけやがって。ホントにヤな奴だ。)
けれども、俊の心配は杞憂に終わったのだろう。
愛する彼女にあんな顔されて
龍が後ろ髪を引かれたのだとしたら、
そりゃそうだと、英断を褒めてやりたくすらなる。
(大事に想われてんだな、遊。)
優しい気持ちで俊が目を向けると
遊が無言で、スチャッと貰ったサングラスをかけた。
(ん…?)
そして、まるで小さな女の子がするみたいに
くるん、と踊るような軽やかさで1回転した。
(回った…。)
その瞳は、グレーのレンズに覆われて見えないが
キスを受けたばかりの唇は隠されないまま
溢れる幸せを噛み締めているのが見て取れた。
( ── 俺は、やっぱり大谷龍が嫌いだな。)
心で悪態をつきながらも、俊の口角はあがっていた。
そして結局、珈琲は買いそびれたのだが
それ以上の刺激と、癒しを摂取出来たような気がした。
ぺこさん
きゃあ〜!ぺこさん、ありがとうございます!
サングラスって、やっぱり大事なアイテムですね。
っていうか!くるん、と1回転って…
可愛すぎやろ〜〜〜〜〜〜っ(*/▽\*)
そんな二人をこっそり見ている俊。
そのさらに後ろから見ていたい私です(笑)
【壁】∀^)…うきゃ♪
万里さま♪
書き逃げ失礼致しました〜(>_<)
あまりに短い&俊視点という変わり種だったため
掲示板に投下させて頂きましたが
いちお、tresorの二人のある日篇だったりします。
家政婦?は見た〜桂木俊の場合〜的な妄想です(笑)
私も!俊の後ろからこのバカップルを見届けたい!!
乙女な遊ちんを見守りたいです〜(〃ω〃)
ぺこさん♪
ありがとうありがとうございます‼
このまさに家政●は見た的な展開…
わたしも 俊と万里さんの後ろから見守りたいです(*≧∀≦*)
くるっっと一回転する遊ちんもメチャクチャ乙女でかわいいですが
戻ってきて キスする龍もカッコ良すぎです‼
二人のお互いに想い合う気持ちが 十分伝わりました‼
ごちそうさまです(*≧∀≦*)
ぺこさん♡
かわいい可愛い遊ちんをありがとうございます!
サングラスをつん、とか、くるん、とか、きゅん♡となります。
カッコつけてるけど、遊ちんが大好きで仕方がない龍も素敵〜♡
何となく、こっそり盗み見キャラな俊ですが、龍にジェラシー感じながらも、遊ちんの幸せを願う… いい奴です!!
俊も幸せになってよかったです〜(*^^)v
たまおさん♪
わーい、バカップル観察ツアー楽しそうヽ(*´▽)ノ♪
俊の後ろに万里さま、その後ろにたまおさん、
では、私は龍が来た方の角から覗きたいと思います(笑)
戻って来てキスしちゃう龍、御賛同ありがとうございます!
絶対カッコいい筈…キスシーンも絵になる素敵さの筈!!
こりすさん♪
わんこ並みに可愛い遊ちんを妄想しました(*^^*)
龍から、サングラスを『やるよ』と言われた瞬間には
きっと、『ぱあぁっ!』と音がつくぐらいのキラキラした
喜びの表情を見せてくれたことでしょう(笑)
遭遇した俊が(妄想のなかでは)現在幸せなのがホントに救いです;;;
ぺこさん、意表をついた番外編ありがとうございます。
不意打ちのチュ♡っていいですよね〜♪
私も俊や部員の皆様と一緒にデバガメなうです。| |д・) ソォーッ…
愛すべきバカップルを間近で見てると萌え死にそうなので
私は隣のビルの窓越しにそっと双眼鏡で覗く事にします。
↑半径5m以内接近禁止をくらったストーカーのように(危)
シャナさん♪
デバガメなう!ありがとうございます♪(/ω\*)
つまり、俊・万里さま・たまおさん・こりすさんが
【壁】ω・`)∀^*)∀・*)∀`*)…♪
こーやって見守っているとしたら、私は反対側から
デュフフ…( * ̄∀【壁】 こんな感じで。
シャナさんは、遠方の窓から
p(@∀@)q…ウハー♪ こんな感じですね!ギャラリー多い(笑)