Seulement un
「─── これ………?」
包みを開けると、中身はウェリントンのサングラスだった。
「火野さんに。前のと、ちょっと似てるだろ?」
先週から、制作現場に復帰した龍は
一から覚えることが多すぎて目が回る、と溢しながらも
そんな毎日を楽しんでいるように見えた。
「バレンタインのお返し、のつもり。」
「あ…。そっか、今日……」
連日、遅めの帰宅が続いていたのだけれども
今夜は早めに切り上げる予定だと宣言していたのは
もしかして、ホワイトデーのことを考えてくれたのかも。
「あ、ありがとう。ずっと大事にするよ、今度こそ。」
そうとは知らず、せっかくお互い早い時間に家に居るからと
二人がかりでわいわい言いながら夕飯を作って
これは上手くいった、この味付けは何が足りないんだろう?
なんて評価を述べ合いつつ一緒にご飯を食べた。
それだけで充分満たされた日だった所に小さなサプライズ。
「それ。"俺"から、だから。」
「うん……?」
分かりきったことを言う龍に、
若干キョトンとしたまま返事をする。
すると、目の前の恋人は何やらムキになったようで、
「つまり、"俺"ってのは、前じゃなくて今の ───」
と言い掛け。
けれども、暫しの逡巡の後に
その唇から脱力したような溜め息を吐き出した。
「…ガキだと思ってんだろ、どうせ。」
ソファにぐたっと背中を預けて拗ねたように呟く様子に、
あ、可愛い。と間抜けな感想を抱いた。
でも、彼が伝えたかったことの意味を漠然と理解する。
「火野さんの一番は、"俺"がいい。他の男は勿論だけど
忘れちまった昔の俺にだって、負けたくないと思ってる。」
「─── どっちの龍も、好きだよ…?」
天井を仰いでいた龍が、
そりゃ、そうなのかもしんねえけど…と口ごもって、
ゆっくりと視線をこちらへ巡らせた。
「じゃあ、他の男は………?」
伸ばされた指が、髪を潜り抜けてスルリと首筋に触れた。
項を抱き込んだ手の親指の腹で、
耳の輪郭をそっと、ゆっくりなぞってくる繊細な感覚に
ピクッと身体の奥で何かが呼び起こされる。
「………っ。」
わざと刺激を促すような湿度のある触り方に、
2週間前の、まるで嵐のような交わりが思い出されて
彼の瞳に囚われたままカァッと全身の血が温度をあげた。
「俺、あんたから合格点貰えた?」
「……なっ!」
なにこれ、なにこれ、恥ずかしい。
そんなことを真剣に確認してくる龍がこっ恥ずかしくて、
しかも、普段子供っぽさが目立つ言動をしておきながら
こんな時だけ雄の匂いを全力で出してくる男の色気を前に
心臓がバクバクして、色んな意味で動揺しまくる。
「───────。」
そもそも合格って何さ?
アレに点数なんてものが存在するのかって話だ。
あとなんだっけ。そう、他の男。他の男………??
「………わ、……」
気付いた時には、パシッと、龍の手を振り払って、
「わかるわけないだろ!?龍しか知らないのにっ。」
と、狼狽えた声をぶつけた後だった。
「………………。」
どういう訳だか経験豊富だと思われていることが
無性に恥ずかしくて、
後なんだか悔しくて、ふいっと顔を背ける。
とは言え、龍が「初めての相手」だという事実は、
彼の記憶から消されているのだからしょうがないんだけど。
「ごめん。」
「べ、別に、いいけど。」
そうアッサリ謝罪されると、引っ込みがつかなくなった
自分の大人げない態度に気まずさを覚える。
でも、それは束の間。
「じゃなくて。今ので、ちょっと勃った。」
「え、た…………っ!?」
聞き間違いかと目を丸くして彼に向き直れば
龍もまたびっくりしたような邪気のない表情で続けた。
「いや、なんか。嬉しいと思ったら反応してた。」
「……………。」
「真っ赤になった火野さんも、すげぇ可愛いかったし。」
「………………。」
思わず絶句してしまったのをどう取ったのか。龍は、
「…しないけどね。約束だから。」
と、少し困ったみたいに微笑んでみせた。
「………。」
2週間前、あの加減なき愛の交歓が影響して
翌日の仕事は酷いものだった。
千葉のロックフェス会場まで移動する最中も、
身体は疲れきっているのに腰痛と謎の筋肉痛に苛まれ
仮眠がとれず、声の出も非常に悪く本当に散々だった。
だから帰宅後、猛省を込めて提案せざるを得なかった。
"これからは、オフの前日だけにしよう" と。
「寝るよ、襲っちまう前に。…おやすみ。」
頬に、軽いキスがちゅっと落とされる。
ソファから腰を上げかけた龍の洋服の袖を、くいっと
遠慮がちに引き戻したのは、ほぼ咄嗟の行動で。
「………明日…オフ、だよ?」
顔が見られなくて、掴んだ袖口に話し掛けた。
たっぷり間を置いてから、ごくんと微かに聞こえた音が
彼が喉を鳴らしたものだと気付くと、
激しい動悸と共に、身体の深い場所に怪しい熱が灯る。
「………俺、がっつくかもよ?」
「っ!?…そっ、れは…………」
ぎゅうっと、掴んだシャツに皺が寄る。
彼に貰ったばかりのウェリントン型のそれも、
反対の手の中で、同じくらい強く握り締めていた。
「こっち見てよ、火野さん。」
…やだよ。
きっとまた真剣な眼で、逃げられないほど見詰めてくる。
それがわかってるから益々頭が爆発しそうになるんだ。
今も、みっともないぐらい真っ赤になっているに違いない。
「……視線で、裸にされそうだ。」
だから。
昔、彼から奪い取ったそれを、
つい先程プレゼントされたそれを、
今度は、自分の手でスッと龍の瞳にかけてやる。
「お返しの、お返し、だよ。」
そうして赤面した顔を見られなくなったのをいいことに
彼の首へと腕をまわして、
唯一知ってるその唇へ、ありったけの甘い想いを重ねた。
Seulement un 【noise 後編より】
(スルマン・アン) 〜オンリーワン〜
noise 後編よりホワイトデー妄想です。
3月1日…二人が気持ちを確かめ合う→龍、寝室で大暴走(後編の冒頭)
※3月14日…ホワイトデー(上の貼り逃げ部分)
4月3日…インペリアルホール前で龍の記憶が戻る(後編のラスト)
と、なりまする(・ε・` )
砂じゃなくて砂糖吐くレベルのバカップル。少年龍、今までありがとう!
甘ぁ〜いっ(*≧∀≦*)
龍、可愛すぎるよ、龍!
>「─── どっちの龍も、好きだよ…?」
私も私もーっ(//∇//)(笑)
ぺこさん、少年龍、ありがとうございました♡
ハッピーホワイトデー〜♡
甘々とろけそうっ(*´▽`*)
火野さんの一番じゃなきゃヤダ!って未来の自分にも嫉妬しまくりの駄々っ子龍が可愛すぎです!
ぺこさん、こんなに素敵な少年龍との出会いを本当にありがとうございました!
火野さんに今まで甘えた分、今度は遊ちんをいっぱい甘えさせてあげてね、オトナ龍〜♡
キャー(*≧∀≦*)
すこし出遅れましたが 甘アマホワイトデー ありがとうございます‼
龍が可愛すぎて いつもの余裕寂々とのギャップに萌えもえ。
連載初期に遊ちんが インペリアルホール前で会った運命の女の子って
解ったらこんなすいーっとカップルになってたんでしょうか?
万里さん同じく…遊ちんもですが
どっちの龍も好きだよ
キャー 私もです(*≧∀≦*)
ぺこさん ありがとうありがとう!
万里さま♪こりすさん♪たまおさん♪
ホワイトデーいかがお過ごしでしたか?(*´∇`*)
私は普通〜の何の変哲もないただの火曜日でした(笑)
世間は年度末…そろそろ現実を直視してお仕事と向き合わなければ(。>д<)
こちらこそ温かく見守って頂き&嬉しいコメントを本当にありがとうございました!!