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スレッドNo.544

Promise(Red rose Christmas Story)

クリスマスイブの夜。

共に暮らすマンションに、二人が帰って来たのは、間もなく日付が変わろうとする時刻だった。



「今夜のライブ、最高だった。」


彼女は、未だ興奮冷めやらぬ様子で、キッチンから顔をのぞかせる。

「ああ、…サイコーだ。」

龍は、安堵感と、心地よい充実感をソファに預けて、呟いた。






セントラルレコード所属アーティストが一堂に会した初となるクリスマスコンサート。

企画自体は随分前からあったのだが、クリスマスシーズンの目ぼしいホールは、全て大手レコード会社かプロダクションに押さえられていて、新参者であるセントラルレコードが入り込む余地は無かった。
東京以外での開催も検討されたが、出演者全員のスケジュール調整が難しく、今年は断念せざるを得ない状況だった。


しかし突如、とある会場が、キャンセルされたとの一報が入った。

長年、ロンドプロが押さえていたホールで、龍自身も、そこでクリスマスライブのステージに立った経験があった。

それは、今のロンドプロに、あのホールを満員にできるアーティストが不在であるということを意味していた。


これは、またとないチャンスだった。


準備期間を考えれば、ギリギリの決断だったが、龍と矢崎の素早い交渉で、何とかクリスマスライブの開催に漕ぎつけることが出来た。


大谷龍、ヒノユウをはじめ、FLUIDITY、桂木俊…


今の音楽シーンを席巻するアーティストが総出演とあって、チケットは即完売。
普段から気心の知れたメンバーでのセッションは、息もぴったりで大いに盛り上がった。



「…また、絶対やりたい。」

彼女の横顔が微笑む。

「ああ。来年もあそこ、使わせてもらえそうだしな。
それと…今、考えてんだけど、夏フェスもいいかなってさ。野外とか…盛り上がるぞきっと。」

「ホント!?」

「ま、野外は雨降ったら大変だけどな。」

「あはは、そうだね。」

ずぶ濡れになった、秋の歌謡祭のことを二人して思い出して笑いあう。


「でも…あんたと歌えるならどこでだっていいよ。」


彼女は少し照れたような笑顔で。

二人分のコーヒーをテーブルに置いてから、また、キッチンの方へと消えていった。



ふと、思い出す。



昔、今と同じような言葉を、“火鷹”に言われたことがあった。


『そのために、インペリアルホール立てなくなったって、かまわないよ。』


そう言ったあいつの、車のガラスに映った切ない表情に気付いて、
これ以上、あいつを巻き込めないと思った。


だから、あいつの前から姿を消した。


あの時の自分の選択を、間違っていたとは今も思っていないけど。

一度、酔っぱらった桂木に、絡まれたことがあった。


『あんたが失踪してる間、遊がどんなにあんたの事、心配してたか、あんたは何にも知らないだろ。
…オレは知ってる。ずっとそばにいたからな。
ずっと…いたのにさ、結局、遊はオレには見向きもしなかった。
彼女の心には、ずっと、あんたしかいなかった。』




あの頃から、彼女は何も変わっていない。

変わったのは……



龍はポケットに忍ばせた、彼女への贈り物の存在を指で確認する。


ふと、時計をみると、すでに日付は替わっていた。





彼女自ら作詞・作曲した新曲は、発売されるやいなや大変な話題となり、瞬く間に今年のシングルのトップセールスを記録した。

各テレビ局の音楽賞レースでは、“ヒノ ユウ”は既に一度、“火鷹遊”としてデビューしていたことが問題視され、新人賞の候補からは外されてしまった。


『よっぽど、新人賞には縁がないんだな。』


彼女は、そう言って全く残念ではなさそうに笑った。




しかし予想外の事が起きた。


彼女の新曲が、秋に発売されたばかりであるにもかかわらず、大賞を軒並み受賞するという事態となったのだ。

セールス・話題性・人気…どこをとっても申し分ないのだから受賞は当然なのだが。


残すは年末の最も大きな歌謡賞のみだが、これも間違いなく獲れるだろう。



もう、坂巻にも誰にも、彼女の勢いを止められるものは無い。


彼女は自らの実力で、この戦いを制したのだ。


そのことが、龍にはとても頼もしく、誇らしかった。





けれど…


もはや、誰の目にもこの上なく魅力的な彼女は、常に男どもの好奇の視線の的だった。

時には公に交際を宣言している龍本人に面と向かって、彼女に関する卑猥な質問を投げかけてくる輩もいて、


「お前、そんなこと言ってっと、共演NGにするぞ。」


怒りを抑えて、できるだけ軽い口調で釘を刺したつもりだったのに。


「お、おい、そんな怖い顔すんなよ。軽い冗談じゃねぇか。」


真顔でそう言われて、はっとなった。

…要は、感情のコントロールが効かなくなっているのだ。


彼女の事になると、冷静さを保てない。


彼女を閉じ込めてしまいたいわけじゃない。

だけど…彼女を見る、男達の目に我慢がならない。


そして、気付いてしまった。


―――これは、独占欲だ。






突然、龍の背後から、暖かい何かが、ふわりと抱きついてきた。


「な、なんだ?」


「クリスマスプレゼント。
知らなかった。カシミヤ?っていうの?こんなにあったかいんだね。」


遊の腕とともにまとわりついてきたのは、マフラーだった。

彼女の吐息が首筋にかかって、心臓の音が早くなる。

「ああ…あったかい。」

(あったかいのは、お前だ。)

冷静さを装って、そのクリスマスプレゼントに触れ、
その柄を確認して、龍は気付く。

「あれ、これって…」

色違いなので一見、分かりにくいが、同じ柄のものを彼女が身に着けているのを、龍は思い出した。

「う、うん、そうなんだ。この前、希代美ちゃんとデパート行ったときにさ、自分の選んでたら、すごく良くて、聞いたら男物もあるっていうから…。
だから、別にお揃いにしたってわけじゃ…」

遊は龍に抱きついたまま、言い訳した。


―――照れた顔が見たい。


龍は、首に絡みついた彼女の腕をやさしく引きよせ、正面に来るよう促した。


「いいじゃん、言えよ。『お揃いにしたかった』ってさ。」

真っ赤になって俯く彼女が、ソファに座る龍の前に跪く格好になった。


「うん、ホントはね、ちょっといいかなって…思った。」

あまりに可愛すぎる恋人の反応に満足しながら、彼女の胸元に光るものに、龍は手をふれた。


「これ、いつも着けてるな。」


それは、今年のホワイトデーに龍が贈ったものだ。


「うん、いつも…衣装で着けられない時も…持ってる。」


「何で?」


「何でって…。お守りっていうか…。あんたが、側にいてくれてる気がするから。
一緒に戦ってるから…何があっても大丈夫だって…思えるから。」


「……」


無言になった、龍の反応をどうとらえたのか。

「な、なんだよ。
…けっこうデリケートなんだからな、これでも。」

遊は、少し剥れて、プイっと横を向いた。


文字通りトップアーティストとなった彼女へ向けられる嫉妬や羨望が生半可なものでははいということは、龍も十分承知していた。
もちろん彼女も負けてはいないから、彼女の数々の武勇伝は遊のマネージャーをはじめ、各方面から伝え聞かされてはいた。

けれど…悔しい思いは数えきれないほどしているだろう。
そして、彼女が、本当は人一倍傷つきやすいことも…


「…ああ、わかってるよ。」

そういって、その頭をポンポンと、やさしくなでると、
彼女は俯いた唇をきゅっとかみしめた。


決して弱音を吐かなかった彼女が初めて見せた表情に、龍は心を決める。


「おっし。じゃあ、おにーさんが、もう一つ、お守りをやろう。」


その言葉に、遊が真っ直ぐに顔を上げる。

「手、出して。目を瞑って。」

すると、彼女は両手のひらを上に向けて、ちょこんと龍の膝の上に置き、期待に紅潮した頬でギュッと目を瞑った。

(何…貰えると思ってんだ?こいつ。)

そんな突っ込みを入れたくなりながらも、お預け中の子犬のように可愛いその姿を、暫く眺めてから、ポケットに忍ばせていたそれを取り出し、彼女の左手の甲を上にそっと返して。


それを薬指にするりとはめた。


一粒の輝きを曲線が包み込む、シンプルに見えて実は繊細な細工が施されたそれは、遊の指に、吸いつくようにぴったりで、龍は満足気にその手に口付けた。

「りゅ、う…?」

お許しが出るのを待ちきれず目を開けた遊が、驚きの表情で自分の指にはめられたそれに見入る。

そして、みるみる、その表情が歓びに輝いて。


龍は、自身の心配が、杞憂であったことを思い知る。



「ずっと…しててほしいと思って、選んだ。
だけど…それは、オレの我儘かも知れないって…気付いた。
お前はオレのものだって、お前に“しるし”を付けたいだけなんじゃないかって…。」


彼女のしなやかな指を自分のそれに絡めながら、龍は偽りない迷いを呟く。

すると、遊は輝くように微笑んで、龍に覆い被さるように、ふわりと抱きついた。


彼女の温もりに丸ごと包まれる。


「…馬鹿だな。もうずっと、あたしはあんたのものなのに。
“しるし”が欲しかったのは、あたしの方だったのに。」




…ああ、こうして全部溶かされていく。



「一緒に…居よう。ずっと…。」



「うん…、うん…。」


腕の中で彼女が何度も頷く。



それは、決して破られることのない約束。


(もう、この手を離したりしない。)


抱きしめる腕を強くすると、彼女もそれに応えて、深く温もりを分け合う。



そしてふたり、いつまでも同じ思いを重ねあっていた。








END

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万里様♡
美少年遊ちん、ありがとうございます!
カラーもラフも素敵です(*≧▽≦*)

イケメンだけど、女性として見ても、すっごく綺麗…なのがツボです♡


そして、書いてしまいました〜
Red rose クリスマスバージョン。
遊ちんの戦いは続いているけどラブラブだから大丈夫!
&独占欲丸出しなプレゼント交換(笑)なお話でした。

皆様、よいクリスマスを!

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こりすさん♪
イケメン遊ちん、見ていただき!ありがとうございます〜(*´︶`*)♡

そしてそしてっ!
うわ〜いっヽ(*´∀`)ノ クリスマスプレゼントが来たぁ〜・:*+.+
新人賞すっとばして、大賞受賞おめでとう〜♪遊ちん♡
独占欲丸出しで悶々とする龍。でも遊ちんも同じ気持ち。
ていうか、マフラーを照れながら渡すとことか目をギュッと瞑って手を出すとか…どんだけ可愛いんだぁ〜
幸せラブラブな二人のクリスマス、ありがとうございました〜♡
(近いうちに部室にもupさせていただきますね。)

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万里様♪
わ〜い☆ ありがとうございます(*^_^*)
そういえば、クリスマスは押さえてなかったな〜と、二人のラブラブクリスマスを妄想してみました♡

上手く盛り込めず割愛しましたが、最優秀アルバム賞は僅差で龍が総ナメにしている…という裏設定もあります。

そして、クリスマスライブで一番嬉しそうだったのは、遊ちんと共演が実現した俊でした←それを見ていた龍の独占欲に火が…(笑)


遊ちんにラブラブあったかクリスマスを過ごさせてあげたい!と願いを込めました☆

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万里さま♪
Twitterで拝見していたあのラフに、いつの間にか色が…!
ブルーのシャツのインパクトと涼しげな視線が
パッと見遊ちんをボーイッシュに魅せるんですが
ふっくりした唇といい、華奢と健全が混在したうなじといい、
これは『出したい相手の前だけで色気出すタイプ』の女性ですな!!
まあ、龍の前で可愛くなったり綺麗になったりするのは、
遊ちん的にはきっと無意識なんでしょうけどね(°▽°)

こりすさん♪
ぬおお、二人のクリスマスverストーリーありがとうございます(*^^*)
プロポーズ!!!
クリスマスに!!
揃いのカシミア!
共演NG!!
独占欲!!
ニヤニヤするワード達に心躍りながらも、
俊が地味?にセントラルレコードで頑張っていることや
酔って龍に絡んでいたことに、しみじみ( ;∀;)
坂巻以外の登場人物には全員幸せになって欲しいですね!!

クリスマスプレゼントありがとうございました〜(  ̄▽ ̄)

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ぺこさん♪
twitterにupしてから色付けるまで時間がかかってしまいましたが、やっとup出来ましたー
今回はイケメン・ボーイッシュ遊ちん♪ということで、ムダにはだけたり脱がせたりはナシ〜(笑)と始めたんですけど、やっぱり隠しきれない色気も…って感じでああなりました。
確かに♡龍の前では色っぽさ全開になりつつも、遊ちんは無意識、無自覚なんでしょうね(//∇//)

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