大森浩のカウンセリングケース:「高1男子の母親」カウンセリング
「高1男子の母親」カウンセリング
1,はじめに
アドラーギルドの事例検討会で、終結のタイミングを話題にしていただいたことが、二度ほどあります。一つは、神経症クライエントのサイコセラピーでのそれ、いま一つは今回紹介するケース」です。
これまで「目標の一致」についてはたびたび話題にしてきましたが、カウンセリング初期の段階で、解決イメージをしっかり構築していれば、終結の見通しも当然そこから立ってくるというもので、終結のコツというものが独立して存在するわけではないと思います。筆者がこのケースを担当していたのは、カウンセラー養成講座修了直後のことでもあり、ともすれば過保護的なかかわりになりがちでした。このケースでは5回目あたりで一応の見通しが立ったと判断して、「凍結」というおしゃれな終わり方をしたはずなのですが、さて・・・・。
なお守秘義務の関係で、内容の一部を改変し、人名はすべて仮名としてあります。ケースは、アドラーギルド版・フォローアップシートの様式で報告いたします。
2、ケースの紹介
□イニシアル・レポート
カウンセラー:大森 浩
施設:岡山県教育センター相談室
クライエント:広沢涼子(40歳) 主婦
IP:広沢雅康(公立高校1年生)
IPの生年月日:昭和:**年2月23日
同居家族:夫、クライエント、長男(24歳)、長女(27歳)、IP(15歳)
開始日:某年10月1日
状態記述:記述診断:健常、対人問題:親子関係、面接形態:個人
□1回目
IP同伴。主にIPの話を聞く。母親は黙って傍聴していた。
(Subjective Problem) 以下(S)
6月中頃から、朝起きられなくて学校へ行けなくなった。腹や頭が痛かった。病院ではどこも悪くないと言われた。2泊3日の宿泊研修が特につらかった。友人たちのようにとけこめない。高校は自分で決めて入ったのだが、失望した。部活動ではバドミントンをやっていた。これはやりたい。姉も同じ高校の出身なので、「あまり良い学校ではない」と言っていたが、それでも自分はそこへ行った。滑り止めに受けていた私立高校の特別コースのほうが良かったと思う。
姉のすすめで、広島へカウンセリングを受けに行った。「潜在意識に尋ねる」といって音楽を聞かされた。「12歳に災いのもとがある」と言われたが、納得できなかった。
<これからどうするつもり?> 以下カウンセラーの言葉は< >でくくる。
大検コースのある予備校へ行きたい。
<それで?>
予備校へ行くようになっても、はたして通学できるかどうか不安なのです。
<不安というのはどういうことが?>
朝やはり起きられないと思うから。
<中学の頃はどうでした?>
あまり休んだことはない。高校受験の直前に骨折で1か月入院した。
<それでもこの高校に入れたんですね。>
はい。
<担任の先生は何とおっしゃっていますか?>
行く先を決めるまで退学の手続きをとれないと。
<将来は、35歳くらいになったら、何をしていたい?>
── 沈黙。
(Objective problem) 以下(O)
眼鏡をかけている。ひ弱そう。姉の話の時、涙を流した。とめどなく流れるのを手で拭っていた。
(Assesment) 以下(A)
初めのうちは、さっぱり具体的に語らなかったが、広島のカウンセリングのあたりから、かなり雄弁になってきた。姉が重要な場面に出てくる。12歳年上で、彼にとっては相談役だろうか、母親代理だろうか。
体が訴えていることの意味は何だろうか。しばらく体の要求どおりに生きてみてもよいのではないか。
(Planning) 以下(P)
将来の自分をイメージしてもらう。
(Supervisor's Comment) 以下(SVC)
1)やはり将来の希望を、きっちり聞いておけばよかったのではないか。そうすると次回からの見通しが立つ。母親が同席しているのだから、息子が当分ぐずぐずしていても経済的に困らないかどうか確認してみる。親の課題はこれだから。(Tさん)
2)この子をエンカレッジするとしたらどんなことが言えるか。今まで姉を目標にしてきたが、うまくいかなくなってきている。自分で考えてみるよいチャンスではないか。(Hさん)
3)1回目でカウンセリングの方向を示してもよいのではないか。本人を対象とするか、親だけか。これからどうしようかと本人に聞いてみればよい。楽屋ネタをばらしてもよい。(Kさん)
□2回目 10月8日 母親のみ
(S)
ここへ来るよう誘ったが、機嫌が悪くて寝ていた。友だちが遊びにくると言いながら友だちは来なかったので機嫌が悪いのでしょうか。姉(12歳上)は活発な子だった。9歳上の兄もいたが、どちらも年が離れているので、ほとんど一人っ子同然。自分から率先して友だちを作るほうではない。高校になって友だちができなかったのかもしれない。
学校は進学競争がとても激しいと言っていた。男の子らしくどんどん外へ出るようであればいいのに、料理が好きです。この前も春巻を作ってくれた。みんなで食べておいしかった。風呂のそうじなども、機嫌が良ければしてくれる。
先週、帰りの車の中で話した。35歳になったら、「それまでに戦争があろうから、生き残れるためには英語を勉強しておこう。何でも食べて生きていけるようにしておきたい」と言っていた。*
<それで?>
なんて馬鹿なことを言うのかと笑った。*
<他の受けとめ方はなかったでしょうか?>
どんな?
<生き残れるための準備をするなんて、すごいとか。>
まさか・・・・(笑い)
(O)
少し小太りのたくましそうな女性。IPを賞めたりクライエントを勇気づけるとそのたびに涙を流した。ユーモラスな場面では笑うようになった。
(A)
料理が好きと聞いて、これはいけると思った。不登校児の男の子は料理の好きな人が多いと野田先生から聞いていた。家事手伝いもよくするので、そういうプラス面、家族に貢献している面に注目していくのがいいのではないか。学校へ行かなくても安心して家に居られるように配慮してはどうか。今まで、IPの失敗を咎めていたらしい。学校へ行かないで家にいるのはのは目障りだと思っていたらしいので、どこを改善すればいいか見えてきた。
夕飯を手伝ってもらうか任せるかしてはどうか。せめて、味だけでもみてもらうように。「おかげで助かったよ」と言える材料をしっかりさがしてもらう。
(P)
IPに、もっと家の中でできることをしてもらう。クライエントのIPに対する評価が変わってくるのではないか。
(SVC)
1)最悪の事態は避けられる子ではないか。(Hさん)
2)誕生順位からライフスタイルをゲッシングすると、「ベイビー」。(Kさん)
3)* を受けてカウンセラーは、「で、お母さんは何とおっしゃったんですか?」と聞けばいい。(Hさん)
4)親の言った具体的なやりとりを聞き出すこと。そうすると、親子のコミュニケーションのティーチインに持っていける。ここまでくると、目標の一致をしておくとよい。子どもが家の中で貢献できる仕事を持つのはよい。親は、子が料理をすることの意味をわかっているのか?(Kさん)
5)「とてもいい子だ」としっかり子を勇気づけると、親も納得できる方向性が出てくるのではないか。取り決めなしに学校の話をせず家庭内のかかわりが話せるのは不思議。家族カウンセリングらしくなっている。普通は、この線まで導くのに苦慮する。(Kさん)
・・・つづく