アイビーの俳句鑑賞 その3
アイビーの俳句鑑賞 その3
35 紀の字もつ父と呑みたる建国日 (かをりさん)
「紀」は紀元節の「紀」にちなむ名であろうか。とすれば2月11日が父君の誕生日でもある。考えて見れば、父親とじっくり腰を据えて酒酌みかわすことはありそうであまり無い。お互いに照れくさいのが先に立ってしまうのだ。久しぶりに親子で酒酌みあわすこともよいものだ。知らなかった父の一面にも触れ、あの時の父の心境はこうだったのかと理解できるようになる。筆者の知人にも「紀」の付く人がいるが、こちらは昭和15年生まれで紀元2600年にちなむ。
47 立春の光に濡れて鎖樋 (市原さん)
鎖樋は寺院などでよくみられる、装飾的な雨樋で下に天水鉢などで雨水を受ける仕組みになっている。雨上がりの陽光に鎖樋が濡れて光っている。見逃しがちな一瞬に詩情を得た作者の鋭い感性に敬意を表したい。「立春の光に濡れて」という楚辞が見事だ。
53 義母の味すなはち夫の納豆汁 (尾花さんさん)
納豆はどちらかというと東日本のもので西日本では馴染みが薄いように思う。まして納豆汁となるとまるで見当もつかない。縁あって結婚した夫婦でも食文化の違いは一夕には克服できるものではない。夫から納豆汁を所望されたが、作り方が分からない。夫の説明を聞いて作るには作ったが、どうもちょっと違うようだ。ここにおいて、夫のソウルフード納豆汁とは夫の母親、つまり作者から見れば義母の味に他ならないと結論が出たようだ。
58 節分や揉みあう漢国府宮 (茶々さん)
コロナの影響で中止になっていた国府宮の裸まつりが久しぶりに行われた。漢はおとこと読む。素直に外連味なく詠んだところに好感が持てるが、国府宮の裸男の揉みあいは天下に周知のことで、もっと違う視点が欲しいような気がしないでもない。あと、三句切れを解消するため少し語順を変えてみたい。「揉みあう」と「漢」を逆にして
節分や漢揉みあふ国府宮 としてはどうだろうか。
82 コロナ癒え味染みわたる七日粥 (ふうりんさん)
この句には二通りの解釈ができると思う。ひとつは、あれほど猖獗を極めたコロナ禍も、此処へ来てようやく収束の兆しが見えつつあることだ。行動の制限が外されることの開放感。もう一つは、自分自身がコロナに罹患し、ようやに快癒したという解釈だ。私は後者の解釈をしたい。この解釈であれば、中七の「味染みわたる」が断然生きてくる。少し塩味の利いたお粥がこんなに旨いものだとは、という腹の底からの喜びが伝わってくる。
76 白葱のにゆつと飛び出て舌を焼く (無点)
今月は無点句になったのが不思議なほど面白い句が多かった。この句などもそうで、鍋物などにありがちな光景を軽妙に詠んだ句だと思う。白葱がにゆっと出るという表現がユニークだし、誰しもが「あるある」と共感を呼ぶこと請け合いだ。
(以下次号、不定期掲載)