選句候補作品鑑賞
9 春霖やさみしい時は手をたたく (えっちゃんあらさん) 2
人は本来孤独な生き物かも知れない。それを紛らすために群れる。勿論生活の為もあるのだが。孤独に耐えられず自死する人が絶えない。この現象は老若男女、古今、洋の東西を問わない。作者は癒しのために手を叩くのである。春霖が切なく木霊する。
11 窓際の席が好きですヒヤシンス(ヨシさん) 4
有る亡くなった文人の好んだ定席は窓際。何故か落ち着くのだ。人の出入りが観察できる利点がある。一時流行った窓際族なる言葉を思い出したが少し意味が違うようだ。口語体には違和感があるがこの場合気持ちよく受け入れられた。座五が動かない。
15 鳥獣の慟哭深き涅槃絵図 (ウグイスさん) 6
西洋の宗教画にはあまり興味を持てないが東洋の宗教画、鳥獣までもが深い悲しみに沈み込むこの臨場感に圧倒された。鳥獣の慟哭の措辞が重い。重厚な作と思う。
28 伊予四温農耕牛馬祀る寺
温暖な伊予、平和な農村。ここに牛馬を祀る寺がある。機械化の進む中で家族の一員の如く存在する牛馬。一生を全うした牛馬を祀る寺。先人の人々の想いに心を寄せた句。お参りしたくなった。無点句には惜しい。
58 老梅や己が来し方重ねゐる
ここれも無点句。私の机上の花瓶に去年の芒がささっている。深みを増して白く頭を垂れている。水も吸わず動かない。この句、己の人生を老梅に重ねている。老いてなお凛として花を付けている健気な梅。老梅に寄り添うその心に共感した。そろそろ芒を処分しようと思うが。
72 パン生地の馴染む手のひらうららけし(弥生さん) 2
生地なる言葉を知らなかった。娘がケーキを作っているのを見て初めて知った。身近なところから句材を見つける姿勢は見習いたいもの。何度詠んでもすとんと落ちる。佳句と思う。
79 掌にまろくころころ鳴るや土鈴雛(ちとせさんさん) 1
写真拝見、可愛いですね。掌に包み込みたい衝動に。鳴るんですね、ころころと。心洗われる句ですね。
105 今日木曽の林業大の卒業式
最初スルーしていたが何故か気になり出した。そもそも林業大学なるものの存在を初めて知った。初めての卒業生だろうか。それとも歴史が。いずれにしても我が国の環境を支える貴重な数少ない大学だ。全国に有るんだろうか。林業大学が。貴重な句だ。