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スレッドNo.2858

アイビーの俳句鑑賞 その3

アイビーの俳句鑑賞 その3
例によってアイビーの俳句鑑賞三原則に則っての駄文。お気に障る向きには平にご容赦。

海峡に潤む漁火冬銀河 (弥生)
何処の海峡かは分からないが、冬の澄み切った夜空の冬銀河と、それに呼応するかのように水平線の下に瞬く無数の漁火。陸地の黒い塊が両側から迫る中、銀河と漁火とが光のページェントとして私たちの目に映る。作者は漁火を「潤む」と把握したが、このあたりの詩的感性はまことに鋭い。読み手を幻想の世界に誘って、しばしの冬景色を満喫させる。

里の義姉に毛糸選びてベスト編む (ちとせ)
里の義姉というからには作者の兄嫁であろうか。年老いた両親の面倒を見て貰い、実家を継いだ兄を助けて献身する兄嫁。一方ならぬ義姉への感謝と作者の思いがひしひしと伝わる。義姉によく似合う毛糸のベストはもう完成したであろうか。

冬紅葉香嵐渓の朱き橋 (ちとせ)
紅葉の名所、奥三河の香嵐渓のシンボルとも言える待月橋を詠んだ句。見事に色づいた香嵐渓に朱色に塗った待月橋が映える。ただ、作者は季語を冬紅葉としたが私は紅葉で構わないと思う。南北に長い日本列島、紅葉の季節もまた長いのだから、秋の季語の紅葉でよいのではないか。冬紅葉には華麗なイメージのほかに一抹の哀歓を含んでしまう。おそらく作者の本意ではあるまい。

木の葉髪労多かりし母の肩 (ダイアナ)
「母の肩」と具体的に身体の部位を示したところに作者のダイアナさんの工夫が見て取れる。単純に木の葉髪と苦労多かった母と取り合わせたのでは、予定調和の弊を免れないが、それを救った。実際に木の葉髪が抜け落ちるのは肩の部分だろうから、母の木の葉髪を見つけた作者が、母の苦労を思い遣ることは自然だ。ぎりぎりまで言葉を吟味し、説得力のある句に仕立てた。

生くるとは忘るることよ木の葉髪 (てつを)
老境に達したてつをさんが到達した境地。忘れるということに二通り考えられる。ひとつは記憶からすっぽり抜け落ちた忘却、もう一つは忘れようという意思があっての忘却だ。いずれにせよ、畢竟、人生とは忘れることに他ならない。これは人生経験が言わせるアフォリズムで、噛みしめて味わい深い。季語の木の葉髪を随分離して使ったが、見事に感応し上五、中七と季語とが響きあっている。

喉が鳴る釜揚げ泳ぐうどんかな (ラガーシャツ)
季語は釜揚げうどんで冬。上五でまず「喉が鳴る」と切り出し、一体、何事が始まるのかと読み手を引きつけた。いわゆる〝ツカミ〟というやつである。次に「泳ぐ」とカウンターパンチを見舞った。これで読み手を、まんまと作者のペースに乗せてしまった。

好物や汁だくさんの大根焚 (ふうりん)
ふうりんさんは食べ物に関する句を多く出される。私はひそかにグルメ俳句と名付けて、今月はどんな趣向だろうかと楽しみにしている。今回はぐっと庶民的な煮大根で来た。汁(つゆ)だくさんの大根焚、中年以上の男性には母親の味だろう。長年連れ添った妻の味かも知れない。母の味、とりもなおさず妻の味である。

年満つや終のお骨の喉仏 (無点)
惜しくも無点句となったが、厳粛な気持ちになる句だ。人間の喉仏の骨は仏が座禅を組んだ形に似ていることから、特に丁重に扱われる。大事な人が亡くなって葬儀も終わり、遺体が焼かれて戻って来た際の最後の別れを告げる場面だろうか、胸を打つものがある。季語の「年満つ」はもっとよい季語がありそうな気がする。例えば、冬菊とか。

以下次号、不定期掲載

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アイビーさん、句を深く掘り下げての鑑賞ありがとうございました。
アイビーさんの鑑賞のおかげて句の世界がより美しく拡がった気がします。

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アイビーさん2句も鑑賞頂き有り難う御座います。
里の義姉に毛糸選びてベスト編む
 深読みに感激しました。八ヶ岳に住む義姉が何時も歓待してくれるので感謝の意でモヘヤの赤の余り毛糸に青、緑、茶を交えベスト編みました。今日渡せるので、喜んでくれるかしら。
選句下さった茶々さん、朱き橋の句でてつをさん、和談さん有り難う御座いました。

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