選句鑑賞
1 箒垣に閉ざす古民家冬日影 (ちとせさん) 4
確か夏に淑子さんの句だったかで「箒草」「箒木」について勉強させていただいたことを思い出しました。この木、箒だけでなく生垣にも使われるんですね。過疎化で廃屋になった古民家を囲む箒木の垣根、それに沿うように射す長い冬の日差し、一読切なくなり廃村ににりそうな故郷に思いを馳せました。
27 ホスピスはこの橋の先笹子聞く (森野さん) 3
現役のころ一度だけホスピスへ行ったことがあります。確か春日井市か日進市。暖かい清潔な個室はうっとりするような雰囲気でした。ボイラーマンだった同僚、昼休み毎日のように息抜きに彼のボイラー室へ。空手を得意とし週末には子供達の指導も。その彼の突然の入院。奥さんは看護婦。1年もせずしてホスピスへ。見舞の私に「本当のことを!」と懇願され何も言えずただ励ました覚えがあります。この句、この橋の先と突き放しておいて座五へ。心憎いまでの句拵え。胸に堪えました。
37 実千両蔵に息づく味噌麹 (アイビーさん) 8
やはり入りましたね、最高点。どなたの句かと思いながら1票を。地味ですが奥行きがありどっしりしたところに惹かれました。何度読み返しても飽きが来ない。味噌麹の深みでしょうか。
43 大屋根の影が来てゐる実千両 (林檎さん) 4
句柄が大きくてしかも繊細。実に心憎い作品です。実千両に人生を重ねると味わいが深まります。
47 咳一つして圓生のまくらかな (アイビーさん) 4
自解にもありましたが圓生は動かないとか。私も落語は好きです。大府でも「子ども落語」が時折市役所で公開されます。何人かの師匠が亡くなり落語界にも世代交代の波が。この句、咳が季語ですが序曲のようなものでしょうか。観客の多くは話の中身は知っているので枕に興味しんしんとか。落語を通して人間性を評価しているんですね。逢うだけでいいと。師匠の中には枕だけ語り退場した猛者も居たとか。迷わず特選に戴きました。気が付けばアイビーさんの句三つ戴いてしまいました。
61 冬の月一光三尊照らしをり (きよしさん) 3
「過日兄弟姉妹に甥・姪等でマイクロバスで善光寺御開帳詣でをいたしました。不信心観光であったかもしれません。でもお前立一光三尊の回向柱に触れると阿弥陀如来様のお計らいが頂けるような気が致しました。」
以上は選句後、きよしさんから頂いたメールの一部です。清さんは西尾にお住いの元教員(校長)、先輩です。お宅へは一度伺ったことがあります。等身大の仏像が数体薄暗い一室に安置されていて度肝を抜かれた記憶があります。英語の教師ですので「ことば」には敏感です。「茶々」という野良猫を可愛がっています。畑へ行く度住みついた農器具小屋で逢うそうです。俳句は初心者、雅号を考えています。「≪虚子≫にすれば」と冷やかしています。ご指導よろしくお願い致します。
67 きしめんの鰹節(かつぶし)躍る十二月 (アイビーさん) 5
私は麺類は大好きですが蕎麦よりうどん派、名古屋へ来てきしめんに出会いましたがまだ馴染めません。うどんの何がいいかと言うとそのつるっとした喉越し感、それと出汁。今でも新宮市の素うどん、妻の好きな三重の志摩うどんの味は忘れられなません。この句の命は中七でしょう。座五がしっかり受け止めています。今日も気温が下がりました。暖かい素うどんが食べたくなりました。
No.877 ちとせ 12月19日 22:23
写真見た覚えがあり改めて確認しました。よく見たら箒がずらり。
ご指摘、有難うございました。
ちとせさんの箒垣の句はアイビーの感想その1(記事・859)で取り上げたところ、作者のちとせさんご本人から返信(記事・877)をいただきました。その記事に実際の箒垣の写真をアップしていただいています。竹箒そのものを垣に使っています。参考までに。