子育ての方針が夫と違う
Q0414
夫と子育ての方針が違ってぶつかってしまいます。進路が決まらない高3の長男に対して、私は本人が決めるので相談に乗りながら見守りたいのですが、夫は「就職しろ。世間の厳しさを知れ」と言います。父性と母性が家庭の中にあることは良いことだと思うのですが(野田→そんなん見たことないけどあるんだね)、本などを参考にしようとする私に対して、「お前はどうしてそんなに自信が持てないんだ。自分でしっかり持って本やまわりの考えに惑わされるな。母親だから甘やかしている」と言われると、自信がなくなります。主人は「子どもに焼き餅を焼いているかもしれん」とボソッとつぶやいたこともありますが、主人の気持ちもくみ取りながら、子どもにも自信を持ってきっぱり向かい合うにはどうしたらいいか悩んでいます。
A0414
だからポジティブな面を探しましょう、ご主人の。この夫さんて、すごく素敵じゃないですか。ある信念を持ってしっかりやってらっして、とても羨ましいことだし、男ってそうでなきゃなんないよね、自分は女だからなかなかそこまで信念を持てないし。父性と母性と同じことをしたのでは、一本調子になる。だから違うことをしないといけない。音楽みたいなもので、バイオリンとピアノが違うことをやっているから面白いんで、両方が同じことをすると、面白くもなんともない。あなたのことを尊敬しているし、あなたのことを信頼しているし、あなたのやり方はすごく素敵なことだと思うし、でも、私は私のやり方をしたい。最終的にはあの子の人生ですから、あの子が両方を聞いて決めるでしょう。夫さんに対する尊敬が足りないのが、一番根本的な問題です。夫婦は尊敬し合って暮らさないと、子どもは尊敬し合う夫婦を見ないから、自分が尊敬し合う夫婦を作れなくなる。人間は3つの方法で学びます。1つは言葉で学びます。耳から聞いて目で見て本で読んで学びます。1つはやってみて試してみて体験から学びます。もう1つはモデルを見て学びます。人間関係の機微はほとんどモデルから学んでいる。私たち医者は大学を卒業して研修医になると、先輩の書記につきます。先輩の外来で書記につく。私は当時、精神科医の権威だった金子次郎先生の書記に5年間、気に入られてつきました。何にも教えてくださらない。ただ外来するだけ。自分の外来をなさって処方箋書いたりするだけなんですが、患者さんが興奮したときにはどういうふうにすればいいか、先生は声がだんだん小さくなるんです。なかなかしゃべらない患者さんにどうしたらいいかというと、患者さんのほうを見ないで目をそらしてニコニコとして待たれるんです。そんなのを見ていて、「ああ、そうなんだ」と見取り稽古をする。これの効果はすごい。言葉で言えないいろんな呼吸というか間合いというかをほんとにたくさん学びました。アメリカへ行ったらバーナード・シャルマンという先生の書記にずっとつきました。子どもの男女関係については親がモデルです。恋愛は知らないけど、夫婦が婚姻生活を続けていくやり方を親から学びますから、だから婚姻生活をしないといけないんです。婚姻生活とは、相互尊敬・相互信頼・協力の関係です。それは両方が同じことをするという意味じゃなくて、両方で一緒の仕事を成し遂げるんです、違うことを分業しながら。だから相互尊敬・相互信頼・協力のやり方を学んでほしいし、だから夫と方針が違うことは何の問題もありません。やがて必ず夫さんはアドラー心理学に賛成されます。なんで今賛成されないかというと、奥さんの頭の中に「私は正しい、あなたは間違っている」という考えがあるからです。つまり競合的なんです。縦の関係なんです。奥さんは「私が正しい、あなたは間違っている」と思い、夫さんは「私が正しい、お前は間違っている」と思う。これを縦の関係と言う。この関係では決して折り合うことはないです。折り合ったら負けだもの。だから縦の関係から下りること。そうするとやがて必ず夫さんはアドラーのやり方を少しずつ取り入れられます。なんでかというと、これは個人の知恵じゃないからです。アドラー心理学はアドラー以来100年間、考えもし実験もし改良もし作ってきたもので、それは冷静にというか実績があるわけです。いろんな場合に、こんなやり方をすると子どもがちゃんと反応するというのがわかります。私の父親はえらい怒る人で、めっちゃやたら怒る人だったんですが、僕が自分の子どもを育てるのを見ていて、「ああ、怒るよりもそのやり方のほうがちゃんと育つね」と言ったんです。彼が怒る人だったのは、彼はそれ以外のやり方を学んでいなかったからです。不適切な行動をするのは、適切な行動を学んでいないからです。適切な行動を見たら、ああこうやったらうまくいくねというのを、人間は知恵がありますから、適切な行動を採用します。「あんたは間違っている。こっちのほうがいい」と言ったら採用しません。なぜ夫さんがアドラーを採用してくれないかというと、夫は間違っていると思っているから。(回答・野田俊作先生)