「作戦」という言葉
Q
あるときバカたれだったと思うことがありました。「作戦」という言葉について。あるときには戦う必要があるんでしょうけど、自分の先生と戦ってどうするのと思ってしまいました。先生は「喧嘩するなら1人でするように」と私に言われたと思うのですが、あの言葉もどっかから聞こえてきます。何かご意見がありましたらお聞かせください。
A
「作戦」というのはあれは翻訳語なんですよ。今の日本語の漢字二文字で書く言葉の多くが、実は英語とかドイツ語からの翻訳なんです。もともとの原語はoperationです。operationというのは、「操作する」とか「作戦を立てて実行する」とか、それから「手術」、「オペ」って言うでしょう。僕たちが外の世界のものに手を加えていくこと。それもむやみやたらにでなく、とても慎重に計画を立てて手を加えることを言うわけ。だから私が作戦作戦というのは、よーく考えて次はどうするかなあと、こういうふうにしたら向こうはこう出てくるだろうし、違うこれをやったら向こうはこう出てくるだろうし、最後こんなふうになっていって、こっちが勝つかなあ、あるいは向こうが勝つかなあと考えるのを作戦と言っている。漢字で書くと、「戦う」という字がありますけど、別に戦わなくてもいいんです。
「協力」というのは、co-operationですが、協力は戦わないでしょう。誰かが戦うために協力することはありますけど。漢字で「戦う」が付いているからといってこだわらないでください。そんな言葉はいっぱいあります。明治時代に賢い人が、みんな漢字に直してくれまして、そこからは漢字の独り歩きで日本文化はやってきまして、ときどきものすごい変なほうに意味が変わったんです。僕がいつも思うのは、学校の先生が使う「指導」という言葉。胸ぐらつかんで張り飛ばすことを指導と言うんですね。あるいは大きな声で「お前、何するんじゃ!」というのを指導と言うんです。もともとの英語はguidance(ガイダンス)です。guidanceというのは相談に乗ってあげること。「まああんた、どうすんの?それもいいけどこれもいい」というのがguidanceです。それを戦後の時代に「指導」と訳したのが、もとの原語が忘れられて「指導」だけがずーっと来た。変な意味で使われて困っている。あんなのいっぱいあります。(回答・野田俊作先生)