語りえないものには……
Q
語れないものについてどうすべきか?
A
それは「黙ること」です。ウイットゲンシュタインが『論理哲学論考』でそう言っている。私が大学を出るころ、友だちとの間で話題になったんです。これには2説ある。
語りうるものはすべて語りうる。語りえないものについては沈黙しなければならない。どっちにポイントを置くか。私は、「語りうるものはすべて語りうる」派です。
語りえないものについては沈黙しなけりゃいけないから、語っちゃいけない。語りえないものは黙るしかない。「鬼神は敬して遠ざける」と孔子聖人が言った。東洋人はこれは得意です。フランス人と東洋人の違いは、日本人は語りえないものがあると思っていること。それはしゃべらなくてもいいと思っていること。何もかも語り尽くさなくてもいいと思っていること。ただ日本人の欠点は、語りうるものをきちっと語らないこと。語りうるものについては、例えば人権・差別の問題についても、はっきり定義して構造を示して語ろうよ。曖昧なまま置いておかないで。(回答・野田俊作先生)