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スレッドNo.693

鬱、統合失調症は治るか?

Q
 妹が精神病院に措置入院になりました。診断上は、鬱、抑鬱?統合失調症のアイの子なのかなあ。面会に行って話しているぶんには普通の人なのですが、薬やカウンセリングで治るものなのでしょうか?

A
 「治るものなのでしょうか?」というの難しい、いつも。「治る」って何か定義しないといけないから。マンフレッド・ブロイラーというお医者さんがいます。マンフレッド先生のお父さんがオイゲン・ブロイラーというお医者さんで二代続いて精神科医なんですけど、先代さんは「精神分裂病」という病名を発明した人なんです。もの凄い偉いお医者さんです。スイスのある精神病院の経営をずっとやられていて、お父さんが一代目でマンフレッド先生が二代目。その病院はブルクヘルツという病院なんだけど、二代目のマンフレッド先生はそこに入院している精神分裂病、今の統合失調症の患者さんの「その後どうなったか」を調べたんです。スイスという国は人口流動性の低い国なんです。だからだいたいおんなじ村にずっと住んでいるんです。日本だとどんどん変わっちゃうけどね。だからこういう予後研究、「こういう病気はあとどうなっていくか」を調べるにはいい国なんですけど、わかったのは、1/3の人たちは統合失調症になったあと一直線に悪くなって、いわゆる「人格荒廃状態」と言って、人間としての精神の働きを失ってしまって、呆然と暮らす状態になってしまいます。それから1/3ぐらいの人は入院したり家で暮らしたり、また入院したり家で暮らしたりして、再発を繰り返しながら一生やっていく。まあ年取るとだんだんマシになるんですが。1/3ぐらいの人たちは一時混乱するけど、やがて良くなっていかれます。だいたい1/3ずつ上向きとずっと真ん中とどーんと下向きとあるんです。お薬がだいたい1950年ころか60年ころに出てくるんです。お薬ができる以前とできたあととを調べたら変わらないです。お薬ができても長期的な予後を見ると変わらないです。これは精神科医にとっては凄いショックだったんです。「薬は効く」という実感を持っていたんです。内科の薬なんて、肝臓の薬とかもらっても効いているのか効いていないのかわからないじゃないですか。でも精神科の薬はシャンと効くんです。「凄ーい」って言うくらい、飲んだら翌日にはシャンと効くのに、20年30年の予後を見ると変わらないんです。ただ症状が悪いときに抑える力があるだけです。だから入院しなくて済むんです。今まで入院しなきゃいけなかった人が外来治療で済む。家庭の中にいられなかった人が家庭の中にいられるようにはなるけれど、でも長期的には変わらない。
 だから、治るって何かというのを考えると、長期予後を見ると、これはお薬飲んでも変わらない。短期的に見ると、お薬をちゃんと合わせておけば、具合が悪くなったときそのお薬を飲むと、その程度、病気の悪くなる程度をうんと低く抑えられるから、社会内処遇、病院の中へ入らないで暮らせるということは言える。それが一点。
 それから二点目、カウンセリングについて。カウンセリングについては長らく絶望的だったんです。統合失調症はともかくとして、躁病は体の病気ですからカウンセリングで何とかなると僕らは思わないんですが、統合失調症はカウンセリングできないかなあと思っていたんですけど、最近、できなくはない。ただかなり面倒くさいカウンセリングになると思うんです。それはなんでわかってきたかというと、統合失調症の犯罪者がいるんです。このごろよくテレビで問題になるじゃないですか。精神鑑定した結果、責任能力ないとかいうことになって、じゃあ、あとどうなるかというと、あと精神病院へ行くんですよ。刑務所へ行く代わりに。今まで精神病院では、特別にその人たちを治療する施設がこの国なかったので、普通の病院で普通のことをしていたんですけど、これではいけないというので、50年かの議論の結果、賛成反対大激論の結果、つい最近新しい法律ができまして、それ専門の、犯罪者を入れて治療する精神病院ができました。それにともなって、精神科医たちは欧米諸国の特にイギリスのそういう施設、犯罪を犯した精神病者の処遇についてのお勉強を始めたんですけど、その中で統合失調症者に対してある種の認知行動療法が効くというのが、かなり言われてきているんです。ただそれは、入院処遇をして、その人たちに対する専門的なカウンセラーさんがいて、その人たちとかなり濃厚に面接をして初めて効くんです。だから、犯罪を犯したような人だと、今の精神科の人的資源をそこへ投入してやってもいいかなと思う。社会防衛のためにその人たちが妄想を持たないようにやってもいいかなと思うけど、犯罪を犯していないぐらいのタイプの人にそれだけのエネルギーを現在の精神医学がかけるだけのゆとりがないんですよ。だってこの国の病棟の約半分が精神病院なんです。全病棟の半分ぐらいが精神病院なんですよ。だいたい医者が今約30万ぐらいいると思うんですけど、精神科医は1万2千人ぐらいです。それだけで半分の病棟を診ていますから、受け持ち患者数が少ないところで7,80人、多いところで200人ぐらいの受け持ち患者を持っているんです。しかも臨床心理に関する資格制度がずっとトラブルの中にあって、そのために臨床心理的なアプローチに対して保険が出ないんです。だから病院は臨床心理の専門家を雇えないんです。だから、病院には心理テストをするのに最小限必要な心理スタッフしかいないし、精神科医のほうはもう手一杯忙しいし、そうなると、原理的には処遇は可能なんです。原理的にはカウンセリング可能ですが、現実的に無理なんです。カウンセリングができるのであれば、将来カウンセリングをするチャンスがあって、それでもって例えば妄想なんかは減るかもしれない。けれど現在としては、そういう犯罪を犯して何がなんでもその人たちを社会的に無害な方向へ導かないとみんなが困る場合に限ってのみできるぐらいの人的資源しかありません。とても精神医学は貧困なんです。しょうがない。だって現実がそうなんですから。みんな精神医学にそんなに金をかけたくないでしょ。国民の税金をそこへどんどん投入したくないじゃないですか。僕なんかムカつくんですけど、国民のホンネとしては「あんなん鍵かけて入れときゃいい」ので「治すことないやんか」と思うじゃない。それが一番安上がりですからね。そこへたくさんエネルギーを投入してくれるなら、たぶん長期予後に関しても良い影響があるかなと思いますが、まあ今のところ机上の空論です。残念ながら。

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