野田先生の質疑応答
Q672 骨髄移植と骨髄バンクについて教えてください。テレビで骨髄バンクのコマーシャルを見るたびに自分が呼びかけられているように感じるのですが、骨髄移植と臓器移植の区別があまりついていません。よろしくお願いします。
A672
まあ骨髄でなくても輸血も臓器移植なんですよ。輸血をあまり臓器移植と思う人はいないけど、でも原理的には臓器移植なんです。それから角膜移植なんかも臓器移植なんです。僕、臓器移植、基本的に反対論者なんです。個人的見解としてね。それは医療に対する考え方なんですけど、医療というのは人間の自然治癒力というものをアテにしているんです。その自然治癒力が働くように手助けをするのが医療で、自然治癒力を超えたことなんてどうせできないんです、現代の医療でもね。自然治癒力との関係でいつも医療を考えるべきだと思うんです。例えば子宮筋腫で出血が多くなっている人の子宮を手術して取ると、そうすると治るんだけど、なぜ治るかというと、造血機能があって血液を増やすからです。収支のバランスがとれるから治るんで、子宮を取るというのは病巣摘出することよりもむしろ自然治癒力が快復するようにしているわけですから、この手術OKなんです。じゃあ子宮癌の末期で、転移あるのに取ったら治るかというと、治らないかもしれないんです。というのは、それは病巣を取ったけど、自然治癒力ということを考えてないと治らないんですよね。じゃあ臓器移植はどうかなと考えると、臓器移植というのは多くの場合、自然治癒力というものを手助けして最終的に自分の力で生きていけるようにというところへ持っていけない状態が多いと思う、今のところ。予後調査をしても、自然治癒力の快復までいかないということになると、もの凄い膨大なお金をかけて臓器移植をする価値があるのかしら?臓器移植というのは、多くとは言わないけど、ある場合には子どもが先天性の心臓病かなんかで、心臓移植をしたら助かるというので、親が8千万円とか1億とかの募金を募ってどうたらこうたらと、そこにまた募金詐欺があったりして心臓移植しなくていい人に心臓移植しないといけないと言ってお金を集めて、どっかへ消えるとかいうような事件がだいぶあるようなんですけど、そんだけやっても子どもの命は実はそんなに延びないと思うんです。手術の予後を見て。しかもそこにお金もかかるし手間もかかるし、いろんな人たちのエネルギーをつぎ込んでいるし、結局その子を生かしたいと思っているは親のエゴでしょ。親のエゴというものを生命尊重とか生きる権利だとかいう言葉で美化しているだけだと思うんですよ。僕はなんと「生きる権利否定者」ですから、そういう点で臓器移植にあまり賛成じゃないんです。でも、輸血に対してはそんなに拒否的じゃないんです。なぜなら、交通事故かなんかで大量出血したのを輸血して一時的に補うとか、手術中の体力出血を輸血して補うとかいうのは、これは自然治癒力を回復するために必要な措置じゃないですか。だからOKなんですけど、例えば、昭和天皇が亡くなられるときに自衛隊員なんか呼んで、もともとあった血の何百倍かの輸血をしました。あんなん凄いバカげていると思うの。自然治癒力が回復しないに決まっている患者さんに輸血してもしょうがないじゃないですか。だからそこらの医療が手を引くことを考えなきゃいけないけど、これは医者の側で考えられないんですよ。医者がここまでしかしませんとかこっから先は治療しませんと言うと、世の中が騒ぐんです。世の中の側で考えてもらわないといけない。そういう視野から骨髄移植を考えると、骨髄移植というのはある場合には自然治癒力を回復させる力があります。抗癌剤でもって今、白血病が治癒するところまで来ました、とうとう。抗癌剤が人間の生命を本質的に自然治癒力が働くところまで使える珍しい病気なんです。他の癌はみんな固形なので、固形のところまで届かなくてみんな困ったりするんですけど、白血病は細胞一個一個が癌で、それが血液中に浮かんでいるもんだから、全部攻撃してもいけるんだけど、全部攻撃しちゃうと同時に骨髄とかがやられちゃうのね。そこで自然治癒力を回復させるために骨髄移植をするということが可能なので、骨髄移植はそれほど反対じゃないんです。ただこれも例によって人間の欲望と関係があって、自然治癒力が期待できないケースにまでやってないことはないんです。ただ僕らはそこを監視できないんです、輸血とおんなじで。だから骨髄はあげてもいいなと思う人は、是非あげてください。白血病で助かる人たちが実際いますから。