エネルギー
Q
人間のエネルギーについてどのようにお考えですか?
A
そんなん知らんわ(笑)。お昼にカツ丼食ったからあれがエネルギーだろう。
心理学というのは、長いこと間違ったことを考えてきた。今でも多くの心理学者が間違ったことを考えている。それは、人間というのは機械だと思うこと。自動車みたいに、エネルギーがあって、それが人間という機械を動かしているというような考え方を漠然とする。それはさかのぼっていくと、生物学から来ている。生物って機械だなという感じを、生物学者たちがここ200年ほど強く持っている。分子生物学者は生物を、遺伝子とかタンパクからできていてすごく精巧な機械だと思う。彼らは本能というものを信じる。
心理学をやっていると本能っておかしいと思う。例えば食べる本能と言います。でも、人間が食べるのとゾウリムシが食べるのと同じ本能だと思う?だってゾウリムシは細胞一個しかないんだよ。神経もない。脳もない。そのゾウリムシが、人間が食べるときと同じ本能が働いて、同じ理由で食べてると思う?僕らは思わない。食べる本能っていうのは、何か生物学者が持っている信仰だと思う。生物学者の神様です。猫っておみやげを持って帰ってくるんですね。「ただいま」って、雀か何かくれる。なんで猫は雀をくれるのかと、生物学者は考える。きっと彼らはある本能に結びつけて言う。本能に結びつけて言うと、「ああ説明できた」と思って納得するクセがある。でも何も説明できてない。やっぱり猫はおみやげ持って帰ってくる。ゴキブリか何か死にかけたのをくれる。なんでくれるんでしょうね。そこで、判断が止まっていていいと思う。だって猫は今後も永久におみやげをくれ続けると思うから。それが本能であれ本能でなかれ、何かある僕らに見えない背後にある力、本能、動因、何でもいい、表面からは見えないある力が背後から動かしているという考え方を、20世紀までの西洋の科学はずっとやってきた。
物理学が一番早くそこから脱却した。物理学者は、何が世界を動かしているか考えない。世界はただ動いている。なぜ地球は太陽のまわりを回っているか、どんなエネルギーが回しているか考えない。ただ回っている。意味もなく回っている。世界は意味もなく動いている。彼らはそれでちっともかまわない。世界がどのように動いているかには興味があるけど、なぜ動いているかには興味がない。生物学者は、ついこの間まで、世界はなぜ動いているか、動物はなぜ進化するのか、動物はなぜこういうふうに行動するのか考え続けてきたけど、最近ようやくやめるようになりました。少しずつ、進歩的な人たちがね。
心理学も最近やめるようになりました。「人間を動かしているエネルギーは何か」って、どうでもいいじゃないか。それが食欲の力であっても、性欲の力であっても、あるいは社会性、所属欲求であっても何だってかまわないではないか。それよりも、僕たちがどのように生きればいいか考えないといけない。そう思うので、この質問は却下。(浩:却下のわりには丁寧な回答でしたね。笑!)(野田俊作)