自己トレーニング
Q
自己トレーニングについてもう少しお話しください。
A
「気がついていく」しかしょうがないと思う。それだけ。結局それだけ。これって、すごく大変なんです。
この間、大阪で、四国八十八カ所霊場巡りに行こうと突然言いだして、おバカさんが8人集まって行ったんです。まだみんな若いから歩こうということで、全部歩いた。全部歩いたら健脚の人でも48日かかる。でも2泊3日しか取れないから、歩けるだけ歩こうということで11か所回った。
お遍路にはタブーがいっぱいあるんです。ひとつは杖の使い方が難しい。ただの杖なのに。杖は弘法大師様の御身代わりなんだって。休むときに人間が先に休んではいけない。杖を先に休ませる。お宿へ行ったり宿坊へ泊まったりするときに、まず杖をきれいに洗って床の間に上げて、それから人間を洗わないといけない。それはまだいい。橋の上で杖をついてはいけない。いわれがあって、昔、弘法大師様が橋の下で寝ているとき、上を杖をついて歩く人がいっぱいいて、そのために不眠症になった。そういう因縁があるから、今でも大師様が寝ていらっしゃるといけないから、橋の上で杖を使わないというのが巡礼のマナーなんです。何でもないことでしょう。橋の上で杖をつかないなんて。でもいつも忘れる。橋の途中で気がついて、「あっ、ここは橋だ。ごめんなさい、お大師様」ってなる。そんなつまんないことでも、気がつき続けるというのはすごく大変なことです。朝から晩まで歩いているといっぱい橋があって。
自分が縦の関係をとっちゃう。あるときには支配的であったり、過保護であったり、どうしてもらいたいと思ったり、甘えたいと思ったりする。それに気がつき続けるというのは大変難しい技です。
Q 気がついたら、それをやめるわけですか。
A 気がついたらしてもいいんです。知ってするならしてもいい。自分は今本当は自分でできるのに、相手にさせたいと思っていて、それでやっているんだとわかってやるなら安全です。
Q いつまでもやっていいわけではないでしょう。
A 消えます。われわれが自分を変える方法は、気がつくことです。気がつくことというのは、行動を変えなさいということではない。「変える」と「変わる」は違う。気がつけば変わるから。いっぺんやってごらん。半年くらい自分がどんなに甘え好きか甘やかし好きか、あるいはその両方が好きか、観察し続ける。
Q すごく破壊的なことを気がつきながらやるのは?
A やってごらんなさい、まず。理屈でオッケーかオッケーでないか別にして、すごく破壊的なことを思いついて、「これは破壊的だ。こんなことをしたら私も他の人も破滅だと言う。さあやろう」と。(野田俊作)