アドラー心理学は覚えることが少ない?
Q
アドラー心理学では、覚えなきゃならないことはわずかしかないと聞きましたが、これはどういうことでしょうか?
A
そのとおりです。人間は、究極的には、信頼し合って、尊敬し合って、責任持って、勇気づけ合って生きよう、これくらいでしょう。
そのためにどうするか。そんなん知らん。うちの子どもをどうやったら尊敬できるんだろうか。うちの主人をどうやったら信頼できるんだろうか。いつも問いかけてください。方法はない。答えはない。方針だけあって。
株の名人がいるんです。株で儲ける方法は簡単で、安いときに買って高いとき売る。原則はこれだけ。どんなとき安いかどんなとき高いか。それは言えない。長年の経験からでないと。10年株をやって、それから聞きに来たら言える。まだ1回もしたこともないときに聞きに来ても、何も言えない。そう言うんです。
どうやって勇気づけるか。それはわからん。やってごらんよ。いろいろやって3年5年して、わからなかったら聞きに来る。
知識と技術とは別です。知識としての、理論としてのアドラー心理学は極端にコンパクトです。これ以上切り詰めようがない単純な理論です。でも、実践するのは別の話で、お稽古がいる。ゴルフは玉に棒を当てて穴に入れればいい。それ以外何もない。囲碁は交互に打って、回りを囲んだら相手を取れて、相手が入れない状況を作ったら地(じ)だ。地の目数の多いほうが勝ち。ルールが単純なことと実践とは別です。さいわいなことに実践が不可能ではない。
複雑な理論だと、理論をマスターするだけで手間がかかってどうしようもない。僕は大学ではフロイト心理学を2年間正規の講義でやった。卒業してからもセミナーを受けた。本もたくさん読んだ。いまだに全然わからない。あらましわかっているけど、ちょっと細かいことを突っ込まれたらわからない。そんなん具合が悪い。2年も3年も勉強してようわからんというのは困る。アドラーなんか2か月やれば理屈は全部わかる。ペーパーテストをやると百点取れる。でも実技をやるとみんな落第する。理屈が単純なのは、早く実践に入れるからいいことですね。(野田俊作)