心を観る 野田俊作
心を観る
2002年03月28日(木)
火曜日の朝、山を登りはじめた。心の中でなにを考えているか、観てみることにした。瞑想法の一種で、ときどきやってみると、面白い発見があったりする。
そうすると、セクシュアルな内容が多いんだね。思い出してみると、山に入ったときは、そういうたぐいのことを考えていることが多い。男の子だから、そういうことを考えると元気になるのかね。女性はセクシュアルなことを考えるとうっとりしてしまうから、登山の助けにはならないだろう。山道をたどりながら、次々と想念が出てくるのを、すこし距離をおいて観て楽しんでいた。
水曜日も山歩きだった。この日はセクシュアルな考えは出てこず、あれこれ音楽が聞こえていた。童謡だったり、演歌だったり、クラシックだったり、さまざまだけれど、聞こえたり消えたりしていた。桜が満開で、とても美しかった。
木曜日、つまり今日は、朝から怒っていた。6時半に朝食だったのだが、6時20分ころには食堂に集合した。民宿のおかみさんが、「3人ほど、桜を見に出てゆかれましたよ」と言った。大日寺の前に、見事なしだれ桜があるのだ。その人たちは6時半寸前に帰ってきたが、それまで10分間ほど、私は怒っていた。時間までに帰ってきたので、その人たちには怒られる筋合いはない。だから当然、なにも言わなかった。歩き始めてからも、そのことだけでなく、あれこれ思い出しては怒っていた。今回のお遍路がはじまってからのこともあるし、もっと昔のこともある。次々と思い出しては腹を立てている。お昼には徳島へ出て解散した。その後、みんなは一緒に食事に行ったが、私は機嫌が悪いので、一緒に行くと迷惑をかけるかもしれないと思い、消えることにした。誰かに怒っているわけではなく、ただ心が怒りたがっているだけだ。それでも、周囲にいる人はかなわないだろう。こういうときは退散するのが人のためだ。
祈り
2002年03月29日(金)
歩き遍路はハイキングではないので、参加者はそれなりに仏さまにお願いすることがあるのだろうと思う。もっとも、私自身は、ありがたいことに、仏さまに頼らないと解決できないような問題をかかえていないので、なにもお願いしていないが、一緒に行った人々の中には問題をかかえている人もいるので、きっとあれこれお願いしたことだろう。歩き遍路で仏さまにお願いすると、他の場合よりもよく聞き届けてもらえるだろうと私は思っている。
もっとも、かなわないたぐいの願いもある。たとえば、「うちの子をいい子にしてください」だの「夫をやさしくしてください」だの「入試に合格しますように」だのは、かなわない願いだ。「私をいい親にしてください」だの「いい妻になれますように」だの「落ちついて勉強できる自分にしてください」だのは、かなう(かもしれない)願いだ。
祈りというのは、要するに自己暗示だと思う。山中を歩くと瞑想状態になって被暗示性が高まるので、その状態で本気で祈れば、自己暗示にかかりやすい。自己暗示でもって他人を変えることはできない。変えることができるのは自分だけだ。
もっとも、自分についてのことであればなんでもかなうかというと、そうでもないと思う。「羽根が生えますように」などという物理的に不可能な願いがかなわないのはもちろんだが、「自然にふるまえますように」などという抽象的な願いもかなわない。具体的なイメージを描けないと、自己暗示にかかりようがない。「よい母」だの「よい妻」だの「まじめな学生」だのというのは、具体的なイメージをもちやすい目標だから、虚心に祈れば願いは聞き届けられるだろう。
仏さまにお願いしない人にかぎって、よく喋る。他の参加者に自分の悩みを打ち明けても、なにも解決しないよ。仏さまに打ち明けても解決しないくらいだから、人間に打ち明けて解決するはずがない。問題に注目せず、解決像に注目しなさいって、心理学も言っているでしょう。グチを言うのをやめ、口を閉じて、心から祈ることだ、そうすれば解決するだろう。
グリーン車
2002年03月30日(土)
広島で仕事をしてから東京に向かった。飛行機にしようか新幹線にしようか迷ったのだが、空港が遠いので新幹線にした。しかし4時間もあの椅子はかなわないので、贅沢をしてグリーン車をとった。やっぱり楽だなあ。これなら、博多から東京までだって行けるよ。広島から東京へ行くことなどめったにないのだが、いつも通っている大阪・東京間もグリーン車だと楽なのになあ。しかし、毎回グリーン車にしては会計がもたない。残念。
ラーメン
2002年03月31日(日)
東京は日暮里駅前の『馬賊』という店でラーメンを食べた。店頭で手打ちしている。長く伸ばしては二つにたたんで、また伸ばしてたたんで、1本が2本、2本が4本、4本が8本と、結局256本になるまで伸ばす。見ていてとても面白い。スープの醤油味が、関東風なのか、塩辛すぎる気はしたが、麺はおいしい。以前から入ってみたいと思っていたのだが、東京のオフィスから日暮里駅までの間においしい店がたくさんあるので、ここまでたどりついたときには満腹状態で、入ることができなかった。今日は、オフィスを出る前に決心をして、そこで夕食にすることにした。
ラーメンはよく食べる。博多風のトンコツ味や札幌風の味噌味よりも、清んだスープのものが好きだ。あっさりしたむかしの中華ソバ風のものもいいし、うんと油濃い、たとえば尾道ラーメンのようなのものもいい。尾道ラーメンはマイナーなので食べたことがある人が少ないかもしれないが、清んだスープの中に豚の背脂がたっぷり入っていて、ものすごいボリュームだ。麺は固めに茹でたのがいい。細い麺よりもやや太目のほうがいいかな。あまりあれこれトッピングしたものより、チャーシューとメンマ程度のシンプルなものを好む。
尾道ラーメンの他に、おいしいと思うのは、東京は有楽町にある『客家』という店のラーメンだ。清湯が絶品で、あれほどおいしいスープは他に知らない。東京のオフィスの下の階は『かむなび』という超有名ラーメン屋で、いつも待ち行列が並んでいる。ちょっとあっさりしすぎていて、私は物足りない気がする。概して、東京のラーメンはおいしいと思う。大阪にも有名なラーメン店はたくさんあるが、残念なことに、あまりおいしいと思ったことがない。
塩分をとりすぎると血圧があがるので、そうしばしば食べることができないし、食べてもスープをたくさん飲むことができない。これはとても残念なことだ。ま、ラーメンと心中することもないので、ときどきにしておこう。