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スレッドNo.889

朋(友)あり遠方より    野田俊作

朋(友)あり遠方より
2002年04月05日(金)

 金曜日の夕方はケース・カンファランスをしていて、カウンセラーさんたちが、自分が相談にのっている事例を提示して、他の人と相談する時間だ。しかし、今日は休みにしてあった。明日から奈良でワークショップをするので、前日は早く帰宅したかったのでね。けれども、連絡は完全には徹底しないから、きっと誰かが間違えてやってくる。そう思って待っていたら、案の定、4人ほどの人が来た。2人は近所の人なのだが、2人は鳥取県の人で、明日からのワークショップに参加するために前日から来たのだ。申し訳ないので、事務所で宴会をしておしゃべりをした。
 『論語』の冒頭に「朋(友)あり遠方より来る、また楽しからずや」という言葉があるが、ものの本によると、この「朋」は、卒業生が復習するためにやってくるのだそうだ。孔子のところで「礼楽」を習ったが、遠隔地に帰って実践していると、だんだん妙な癖が出てくるかもしれないので、ときどき孔子のところへ帰ってきておさらいをするのだという。今でいう、生涯学習だ。その文脈で読むと、次に続く「学んでときにこれを習う」というのは、「勉強して卒業し、故郷に帰るが、ときどき母校に集まって復習をする」というような意味になって、つながりがよい。われわれも、まさにそういうことをして暮らしているな。私は孔子聖人ほど真面目な大人物じゃないけれどね。



奈良町界隈
2002年04月07日(日)

 近鉄奈良駅から南へすこし行ったあたりに、奈良町と呼ばれるかいわいがある。正式の町名でいうと、いくつかの町が含まれるのだが、俗称として一帯を奈良町といっている。奈良でワークショップをしての帰り、女性方が奈良町へ行きたいというので、お供をした。江戸時代中期からの格子のある家々が洒落た店になっていて、高山や郡上八幡を思わせる。いや、ほんとうはこちらが本家で、高山などがコピーなのだろう。いかにも女性好みのかいわいだ。
 女性方の買い物におつきあいするのは、男性としてはつらいものがあるので、おたがいに迷子にならないようにだけ注意をしながら、付近をあちこち歩き回っていた。ここいらは元は元興寺(がんごうじ)の境内だったところだ。その寺は、蘇我馬子が飛鳥に建てた日本最初の仏教寺院が、後に平城京に移転されたものだが、戦国時代に焼失し、現在はごく一部の建物が残っているだけだ。その北側には猿沢池があって、そのまた北が興福寺だ。滅亡してしまった元興寺とは対照的に、ずいぶんきれいに改装されている。このあたりの寺院は、鎌倉時代までは、いわば大学のようなもので、秀才たちが全国から集まって学問をしていた。そういう時代の雰囲気は、今はまったく残っていないが、そういう場所を歩いているということに、ちょっと感動していた。
 元興寺にむかし智光という学僧がいた。この人は日本で最初に浄土教の論文を書いたインテリゲンチャなのだが、民衆運動家の行基を馬鹿にしてその報いで地獄に落ちる因縁が『日本霊異記』に書かれている。浄土教といえば、興福寺には解脱上人貞慶(じょうけい)という学僧がいて、法然上人の浄土宗を非難して、『興福寺奏状』という告発文を書いた。その結果、法然や親鸞は流罪になる。智光も貞慶もアカデミックな大学人で、行基や法然などの在野の活動家を迫害する。それから一千年ほども経って、結局残ったのは行基菩薩や法然上人で、アカデミックな学者たちは人々から完全に忘れ去られている。なんだか、そんなことを、すこし自分に重ねて考えながら、歩いていた。



ウは宇宙船のウ
2002年04月08日(月)

 「小説は読まない」という禁を犯して、古典SFを手当たりしだい読んでいるが、レイ・ブラッドベリ『ウは宇宙船のウ』(創元SF文庫)にとりかかった。これは、話はよく覚えている。子ども時代にも読んだが、大人になってから読み返しているので。しかし、なんど読んでもいい話だ。今回は、文体の美しさにびっくりしてしまった。といっても翻訳だが。

 その塀に、ぼくらは顔をぎゅっと押しつけ、爆風が温かくなるのを感じると、その塀にじっとかじりついたまま、自分たちがどこのだれそれだということなど忘れ、ひょっとしたら自分だってあんな人物になれるかもしれないとか、あんなところへ行けるかもしれないとか、そんなあこがれにふけったものだった。……

 それでもぼくらは男の子で、男の子だということが気に入っていたし、フロリダのある町に住んでいて、その町も好きだったし、学校にかよっていて、その学校もかなり好きだったし、木登りやフットボールをやり、お母さんやお父さんが好きだったものだ。……

 でも、毎週、あるきまった日のあるきまった時間には、いつも、ほんのしばらくのあいだでも、ぼくらは、火や星のことや、みんなが待っているあの向こうの塀のことを考えたものだ。……ぼくらは宇宙船のほうがもっと好きだった。

 これはぜひ原文で読んでみなければならない。『指輪物語』が終わったら、これを英語で読んでみよう。
 『指輪物語』は、現在は第2部に入って、ピピンとメリーがエントの「木の髭」と話している。それと同時にブラッドベリを読んでいて、さらに心理療法の英文の専門書を一冊読んでいる。ときどき釣りの雑誌やらも読む。いつもこんな風にして本を読む。浮気なだけじゃなくて、一夫多妻的なんだな、きっと。

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