私の一句
私の一句
農家より農家に嫁ぎ大根干す
この句の農家の婦人に特定のモデルがあると言えばある、ないと言えばない、曖昧模糊としたものだ。取り立てて言うほどもない平凡な設定ながら、俳句にストーリー性を感じてもらえば作者冥利に尽きる。
この近辺では武豊町の架大根が名高い。古くから「武豊たくあん」として知られ、一面をびっしり大根で埋め尽くした様は、一大盛観だ。真っ白な大根が冬の日にさらされて萎びるに従い、ほんのり黄ばんで来る。まさに冬の風物詩と呼ぶにふさわしい。
ところが武豊町にお住いの人に聞くと、最近は架大根を見ることも少なくなったという。味噌溜まりの醸造業は今も隆々たる威勢を誇っているのに対し、町内の漬物業は2社のみという。これには、様々な理由があるだろうが、時代の波で片付けるのは寂しすぎよう。
この句を、過ぎし日の郷愁にも似たオマージュとしてしまうのは私の本意ではないのだが…。
(この稿は書下ろし)