家族写真 ゆき
家の近くの写真館で
撮ってもらった一枚の写真
長い間忘れられて
古いアルバムに挟まっていた
お気に入りの服に着替えて
髪にリボンを付けた姉は嬉しそう
父の前に立っている兄は
肩に置かれた父の手を気にして
緊張した様子
母は私を膝に座らせて
小さなため息をついてから
カメラを見つめた
確か大雨の日だった
外で光る雷が怖いと
まだ幼い私が泣き出して
カメラマンのおじさんは何度も
面白い顔をしたりぬいぐるみを
抱かせてくれたりした
気がつくと撮影は終って
車は家ではなく祖母の家へと
向かっていて
姉と兄は疲れたのか寝てしまい
退屈な私は外を見ていた
不意に母が泣き出して
父は何も言わずにラジオをつけたので
助手席に座っていた母に手を伸ばしたけれど
届かなかった
真っ直ぐにカメラを見つめる父は
何か言いたそうだ
元々自由奔放だった父がいなくなっても
またいつものように戻って来ると思っていた
昨夜から降っている雨は
一層激しくなってあの日の記憶を呼び覚ます
どうして母が泣いたのか
私達を祖母の家に置いて
父は何処に行ったのか
何故帰って来なかったのか
必要のない家族なら初めから
ない方が良かったのに
心の奥底に隠してきた泥を
吐き出すように
写真の父を睨みつけた
本当は寂しかった
帰って来るのを待っていた
私達の何がいけなかったのか
聞きたい事は沢山あったのに
残されたのはこの写真だけ
幸せでない家族の写真は
これからも埃を被ったアルバムの中で
誰の目にも触れずに眠り続けるだろう