小さな花束 荻座利守
ある朝
車の多い交差点の片隅に
小さな花束が置かれていた
数日前そこには
何人もの警察官が立ち働くなか
無惨にひしゃげた
原付自転車の残骸が横たわっていた
小さな白い花束
誰がどんな想いで置いたのか
わからないが
花はいつも
人の想いを担う
摘み取られ
根から切り離された花は
数日のうちに萎れ散りゆき
決して実をつけることはないが
そこに託された想いが
誰かに届いたとき
花はその人の心のなかに
実を遺す
たとえ眼に見えず
気づかれなくても
我らの内には
担われた想いと
担った花とにより稔った実が
常に届けられていて
たとえそれが
喜びでの実であっても
悲しみの実であっても
それは我らのうちに
深く深く沈みこみ
時を経て
更に熟して
形を変えて芽吹きだす
交差点の片隅に置かれた
小さな花束が
どれだけの実を遺したかは
わからない
だがそれは
消えゆく命の
ただ滅するのではなく
いつかどこかで
形を変えて芽吹くことへの
切なる祈りを
担っていたのかもしれない