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スレッドNo.1022

小さな花束  荻座利守

ある朝
車の多い交差点の片隅に
小さな花束が置かれていた

数日前そこには
何人もの警察官が立ち働くなか
無惨にひしゃげた
原付自転車の残骸が横たわっていた

小さな白い花束
誰がどんな想いで置いたのか
わからないが

花はいつも
人の想いを担う

摘み取られ
根から切り離された花は
数日のうちに萎れ散りゆき
決して実をつけることはないが

そこに託された想いが
誰かに届いたとき
花はその人の心のなかに
実を遺す

たとえ眼に見えず
気づかれなくても
我らの内には
担われた想いと
担った花とにより稔った実が
常に届けられていて

たとえそれが
喜びでの実であっても
悲しみの実であっても
それは我らのうちに
深く深く沈みこみ

時を経て
更に熟して
形を変えて芽吹きだす

交差点の片隅に置かれた
小さな花束が
どれだけの実を遺したかは
わからない

だがそれは
消えゆく命の
ただ滅するのではなく
いつかどこかで
形を変えて芽吹くことへの
切なる祈りを
担っていたのかもしれない

編集・削除(編集済: 2022年11月13日 08:55)

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