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スレッドNo.1039

魔法のお菓子屋さん  朝霧綾め

十いくつもの路線が通る
大都会の駅
うろうろ 道に迷っていた私の前に
そのお店は
突然現れた

駅ビルの白い照明の中で
そのお店のライトだけ橙色で目立つ
店舗面積わずか四畳ほど
茶色いベレー帽 白いブラウスの店員さんが
店頭に立って勧誘している

目が合うと
「ご試食いかがですか」と言われた
はい、と呟いて おそるおそる出した手に
ころん、と載せられた飴一つ

「アプリコットになります」
うたうように お姉さんは言うと
また他の人に 声をかけはじめた

私はもらった飴を見る
長く長く伸ばしてから
とんとん 包丁で切ったのだろうか
円柱形の真ん中には
小さなサンタクロースの絵
外側には青と赤のストライプが
くるりと一周して
サンタクロースを守っている

口に入れれば
サンタクロースの白いひげと
外側のストライプが
ゆっくりと溶けていく
甘くてほのかに酸っぱい

カラフルなお菓子に
吸い寄せられるようにして
私は
そのお店の階段を
一段登る

棚を見上げれば
まさに夢のような光景

木箱に挿さった棒つきキャンディー
砂糖をたっぷりとまぶしたグミ
大きな瓶にさっき試食でもらった飴が
たっぷり入ったもの

前を通った子供たちが
この光景にくぎ付けになる
あたたかいライトに照らされている
きらきら眩しいお菓子たち

私も子供のように想像する

棒付きキャンディーの渦巻きに
目が回ってしまいそう
紫と白 ピンクと白
あの円盤を口にくわえてみたい

グミの甘酸っぱい砂糖が
舌の上でしゅわりと溶ければ
きっとおいしい
ピンクはいちご味だろうか

小さな飴が無限に入った
大きな瓶
一生かかってもひとりじゃ舐めおわらない
あまりに重たくて瓶を持ち上げられない

これらのお菓子の原産地では
今日のような寒い日
雪の代わりにお菓子が降る
だから人々は
つもったお菓子をボウルですくって
ここへもってきて売る

どこへ行っても甘い匂いがする
お菓子の国 魔法の国


アプリコットの飴が
さらりと 口から消えたころ
私は我にかえって
また改札を探しはじめた

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