MENU
1,157,900

スレッドNo.1041

失火  理蝶

見えないように
忘れるように
振る舞えば
心も現実もやがては歪んで
本当に見えなくて忘れて
しまえるものだと
思っていた

だけど僕の中には
まだ残っていた
燻ってはいたが
若い恋の火が

地に着きそうな
蝋燭の上で
赤い点となって
燃えていたのだ

その炎は
煌々と光りながらも
膿んでいた
心の壁を
静かに侵していた

そうして心にできた
ためらい傷は
もはや痛みはなくとも
その形で
言葉なく訴えている
お前は正しく傷つくべきだったのだ、と

僕はいくつもの景色を空想する
秋の通り
劇場の帰り
何気ないスーパーの匂い
その景色を全て
一人でなぞってゆく

僕は涙する
寂しさにではない
愚かしさに

僕は涙する
涙する権利すら
僕にはないと知りながら
それでも次から次へ
溢れてくる
この涙の収め方を
僕は知らなかったから

街の音、秋の気圧、気怠げな往来
無愛想なカットシャツ
無反省なネオンライト
奥行きのない瞳
電光掲示板
遅れた電車
白いため息
他愛もない話
つんのめる足裏
片方だけの手袋
地下鉄の風
なだれゆく人、なだれ込む人

その全てが僕に言う

お前は正しく傷つくべきだったのだ、と

編集・削除(未編集)

ロケットBBS

Page Top