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スレッドNo.109

ベイシー夫妻のメリーゴーラウンド  三浦志郎  6/17

始まり  WILLIAM & CATHERINE

マイルストーンホテルの結婚披露宴は―、
少し風変わり。その集いは微笑ましい趣
向でお開きとなる。ホテルの隣は遊園地。
挨拶を済ませた新郎新婦に来客が続く。
幸せなふたりの為にメリーゴーラウンド
だけは、ひとときの貸切になる。ふたり
は伯爵(COUNT)とその夫人のように睦
まじく馬車に乗る。バンド仲間の演奏が
賑やかに、この遊具に調和する。新婦は
ジューン・ブライド。人々は周りを囲ん
でライスシャワーで祝福する。笑顔と歓
声が巡る。来園客も微笑んで眺めている。
やがて新たな人生が回り始める。


二十年後  WILLIAM & CATHERINE

夫はツアーにライブにレコーディング。
実に多忙だが、この日だけは仕事を入れな
い。夫婦は結婚記念日にこのホテルを訪れ
る。夫人をエスコートしてディナー。ほろ
酔い気分で、メリーゴーラウンドに乗るの
が毎年の慣例になっている。ふたりは想い
出している。ここからスタートしたことを。
回り続ける“ふたり時間”を祝い楽しむ。


四十年後  WILLIAM & CATHERINE

子供たちも巣立って、夫婦は再びふたり
だけになった。結婚記念日に、このホテル
と遊園地を訪れるが、ローラーコースター
に乗るには少し老いたようだった。もうふ
たりとも恐くて自信がない。メリーゴーラ
ウンドは快く受け入れてくれる。ファンだ
ろうか?手を振ってくれる人々がいる。
ふたりの“想い出アトラクション”。


六十年後  ONLY CATHERINE……

その日。パートナーはすでに亡く、独りに
なったその人は息子の車に乗せてもらい、
やって来る。もうホテルで食べたいものも
なく、紅茶だけが目の前にあった。杖を突
きながらメリーゴーラウンドに向かう。
披露宴の時を想い出して馬車に乗る。隣に
パートナーはなく、代わりに息子が一緒に
乗ってくれる。そんな風景を係員は不思議
に思うのだが。理由を話せば、きっと―、
やさしい気持ちになるだろう。
(ふたりの時間はこの乗り物のようだった)
あの人の音楽を想い出しながら、
老婦人はそんな比喩を味わっているだろう。

歳月は楽しく巡ったのだった。




           * ベイシー……COUNT・BASIE、アメリカのジャズ音楽家、
                   ビッグバンドリーダー。本名はWILLIAM。 
                   1984年、79歳没。


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メリーゴーラウンドをモチーフに書くのは、これで三作目になります。
おそらく、その回る感覚が自分の時間意識と連なっているのかもしれません。
私もベイシーさんが乗るメリーゴーラウンドに手を振る一人であります。

編集・削除(編集済: 2022年06月17日 04:38)

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