世界と私の始まり
夜明け前の 夜の並木道は 倫理的な道だ
夜の静けさのなかで 樹々は眠っている
星々は 満天の 空に 輝いている
小鳥も眠っている
樹々も 小鳥も 静かで
騒ぎ出すものは 何もない
空は ルオーの夜の絵のように 暗くて
たまに通り過ぎるひとも ルオーの夜の絵のように
黙って歩いていて 静かだ
私は ひとり 歩いている
暗い夜の空の底が
ゴッホの星月夜の 青い空の ように
変わって来て
並木道の 樹々も 青い夜のなかで
少し 暗い姿をみせてくる
暗くて青い空に ブリューゲルの絵の木の枝のように
浮かび上がってくる
空は だんだん 青い色に白がさして
白い青に 変わってくる
星々は 光を 薄くしているが
まだ 空に 美しく 輝いている
東の 空が だんだん 朱に染まって来て
モネの日の出の絵のように 赤く輝いてくる
並木道は 青から 白い色に変わってきて
道が 少し はっきり 見えてくる
空が 明るくなって 夜明けが 始まるようだ
樹々の緑の葉が はっきり 見えてきて
椿の 赤い花も 美しく
開いた 花や つぼみの花が 見えてくる
赤い実のなる木も 美しく しらじらと した空に
たち上がってくる
夜明けころが 一番 寒いようだ
けれど 私は 世界の夜明けを
楽しみながら 静かに 歩いている
夜明けが くる
今日も また 夜明けが くる
美しく 静かな 夜明けが くる
小鳥が 起きだして 飛んで 樹々の 梢で
澄んだ声で 鳴いている
今日も 世界は 始まった
約束された ように 始まる 世界は 楽しい
あたりは 白く明けて来て
緑が美しい
銀杏も 黄色く 色づいている
朝の 空気は 雪解けのように 澄んでいる
歩く私の 呼吸する 空気は 新鮮だ
朝が 始まった
夜明け前の 夜の 倫理的な 並木道を
歩いていて いた 私は
行き交う 人々に 朝のあいさつを する
元気な おじいさんが 歩いている
毎日 歩く おじいさんだ
夜が 明けたので 私は 帰ることにする
夜明け前の この時間は 世界の始まりで
私の 始まりだ