放射冷却の朝 荻座利守
凍える冬の朝
張りつめる大気を
通り抜けて
高空へと放散しゆく
赤外線の
震えるような幽かな声が
呼びおこすものを
あなたは再び
感じとれるだろうか
砂糖菓子のように
微細にきらめきながら
この地のあらゆるものに
くまなくまぶされた
ざらつく霜の
刺されるような感触を
静止する水面を
覆い尽くした薄氷の
滑らかに透き通りながらも
僅かに歪んだその面を
柔かに透過する
淡い冬の陽光の屈折を
繭糸ほどに繊細な
銀色の筋を描く
飴細工の如き霜柱が
脚下で折れ崩れるときに
靴底より伝えくる
乾いた戦慄きを
枯れた葦の周りを
静かに漂う川霧が
東雲をつらぬく
幼い朝陽をとらえて
黄金のローブを纏うかの如く
輝く様を
高空へと放たれた
赤外線の幽かな震えとは
あなたの奥底に
しまい込まれていた
記憶との共振
あなたの肌を切りつける
剃刀の如く鋭い
高空の蒼に散りつつも
その下に立つあなたの
存在の熱量を際立たせて
かじかむ疼きの内に潜む
冷徹ながらも
甘美な麗しさを呼びさます
放射冷却の朝