冬を見ている 理蝶
北風は朝の清潔な
川面を撫で
流れるもの同士の親密さで
互いに挨拶をし
冷え込みを強くする
装甲車のように
着込んだ人々が
体の芯に熱を溜めている
缶コーヒーを拝むように持ちながら
彼らは彼らの場所へ
しまわれてゆく
朝の鳥はどれも
濃い茶色をしている
逆光に透かされた
無駄のないそのフォルムに
やはり彼らは空を飛ぶため
生まれたと感じる
寂れた路地に
横たわる
冷え切ったスチール缶
やがて登る太陽は
その路地を照らすことはなく
表通りから滲んできた
冬晴れの陽気が
微かに漂うのみだ
肩を寄せ、肩をすくめ
人々は語らう
体に溜めた熱は静かに交わり
空に吸われ消えてゆく
代わりに震えと北風が体を埋める
色彩を失いつつある自然に
抗うかの如く
煌めき出す都市
気が早いことに
朝にはもう
陽気な音楽と
発光する電球を
夜に向けて街に
ばら撒き始める
北風が強くなる
面という面をなぶっている
あんなに親密だった川面にも
等しくぶつかっている
川面は怯え泡立っている
北風がさらに強くなる
乱暴に上から吹きつけて
思うが存分凍てつかせてしまえ
そして春が来る頃には
何の未練もなく
消えてしまえ
巨大な冬が
遠い北からやってくるのを
灰の空から降ってくるのを
僕は見ている
僕は澄んだ冬の瞳で
真摯に向かい
心を慰めるものが
景色を掠めるまで待つ
ポケットに手を入れて
いつまでも