ベンチ 喜太郎
ベンチに腰掛ける老人
隣の落ち葉をはらい僕は腰掛ける
老人は澄んだ青空を眺めている
「あなたの人生に価値はありましたか?」
唐突な質問にも動じる事は無く
空を眺めたまま老人は答える
「終わりの時に 少しでも笑えれば
それで満足じゃないのかね?」
老人は続けた
「名を残したいのかい?
それとも死が怖いのかい?」
僕も空を眺めた
初冬の空はどこまでも青く澄んでいて
寒ささえも季節の肌触りと感じる
笑顔で終わりを迎えられたら......
その為に何を為すべきか考えてみよう
老人は心を読んでいたかのように
「人生に振り回される事なくだよ」と
僕の顔を見て言った
「ハイ」と答える
老人は空に視線を戻し
僕はベンチを去った