椿の蕾 荻座利守
深く沈む
暗い緑の葉の陰で
微かな吐息のように
膨らみ始めた椿の蕾
この世界に出でることを
躊躇うように
己の姿を顕すことを
恐れるかのように
未だ閉じられている
その萼片の
僅かな隙間より
鮮やかな紅い花弁の色を
そっと覗かせている
暗い緑の葉の陰に
隠れる蕾よ
何も恐れることはない
太古より受け継いだ
その内に息づく
力を信じて
迷うことなく
己の華を咲かしめよ
僅かに膨らみ始めた
小さな蕾よ
何も躊躇うことはない
お前は
この広大な宇宙に
余すところなく遍在する
悠久なる時の流れの
ひとしずく
お前が膨らみ
華開き
散りゆく中に
この世界の意味が宿り
この宇宙に満ちている
使命のひとつが
果たされるのだから
路往く人々は
永久にめぐる
生命の輪を想わせる
お前の秘めたる荘厳さに
思わず
足を止めるだろう