あたまのわるい私は 荻座利守
あたまのわるい私は
いつも霞がかかったように
うつくしいものが
よく見えない
あたまのわるい私は
散らかった部屋のように
うつくしい言葉を
見つけられない
あたまのわるい私は
寒さにかじかんだ手のように
うつくしく
言葉をつづれない
例えば
老婆の手のような
プラタナスの葉や
陽光の欠片のような
たんぽぽの花や
龍の鱗のような
硬い柊の葉や
愚直なロボットのような
働き蟻の姿を
眼に留めて
風に飛び散り
消えてなくなるような
けし粒をかき集めるが如く
空を這いまわる雲や
風雨を呑み込んだ奇岩に
見る人が形を与えるが如く
とらえどころのない靄に
形をもたらそうとして
現れたものは
できのわるい紙風船
隙間だらけで
歪んだまま地に落ちる
それでも私は
なおも
紙風船を膨らまそうとする
あたかも命の息吹を
吹き込むかのように
そう
あたまのわるい私にも
ひとつだけ言えること
言葉に命を
与えてみたい
命を吹き込まれた
言葉そのものこそが
この世界に隠された
見えない次元の影法師
ほんの時折にしか現れない
真実への扉だから
隙間だらけの紙風船に
あたまのわるい私は
なおも
息を吹き込む