MENU
719,282

スレッドNo.1219

還る  理蝶

野菜ジュースが血に見えて
吐き出してしまったところで
彼女はもうおしまいだと思う

彼女は海へ向かうことを決める
ありがちだなと口の端を歪める
でももう構わない
通俗だとかそうでないとか
そんな次元にはいない錯乱の中
彼女は海へ還るのである

漣の一つとなるまで
細かく解けて
彼女は大いなる循環に
身を置くのだ

彼女は10年落ちの
青い車へ乗り込み
エンジンをかける
流れていく車窓の中
彼女は彼女の生きたことを
振り返ったり見つめたりする
それに伴うはずの胸の痛みすら
もう彼女には訪れない

いくつかの愛と憎しみは
彼女が残せる数少ないものであるけど
それも波の満ち引きのように
誰かの心で
本当に時折顔を見せたり
2度とは見せなかったりするのである

尾を引く愛や憎しみで
誰かの中に生きていたいだろうか
彼女が生きた意味を
示す物は本当にないのだろうか
そんなことを秋の霧のような頭で考えている

それも全て
海へ還ればわかる
心の答えや魂の在りかも
全てわかる

罪を背負った猿の言い訳を
聞き飽きた地球が
まだ青い水をその体に
とどめているうちに
彼女は音もなく溶けてゆくことにする

さようならなんて言わない
ただ元に戻るだけなのだから
大いなる循環に
形を変えて
加わるだけなのだから

彼女は重たいドアを開け
潮風を浴びる
ここで孤独に錆びて行く
青い車を見る
そして彼女はこの星の誰よりも
丁寧に目を閉じた後
静かに海へ歩き出す

編集・削除(未編集)

ロケットBBS

Page Top