松島や ピロット
どんな船に乗ったのか
瞳に映ったのはどんな島だったのか
何もかもが曖昧で
白いヴェールの内に霞んでいる
昨日みた夢の記憶のように
松島や ああ松島や 松島や
目前に広がる海原 点在する島々
これが絶景なのかしら
首を傾げながら乗り込んだ遊覧船
遠ざかる岸 藍色の海
船の道筋は どこまでも白く続いている
陽光を反射させ 輝く水面
潮の香り 島を指差すあなたの横顔
あなたの肩越し広がる景色は 確かに絶景
波立つ胸に 絶景をも霞ませる あなたを描く
田舎臭い民謡 エンジン音
かき消されぬように
島々の名を 奇怪な形の不思議を
あなたは 熱心に語ってくれたっけ
波に洗われ浸食した 岩肌の灰白色
頂きの松の緑 橋の朱の色
近付く島に目を見張り
船立てる波の後 遠ざかってゆく島を見送った…
*
懐かしい記憶の中
船は進んでゆく
あの島々の名 どれ一つ
今はもう 思い出すことができない
二人で船に乗っていた……
潮風に吹かれ 並んで佇んでいることすら
恥ずかしかった
あの頃……
観光地の宿命か
時の流れの中で
絶景とは似つかわない 可笑しみと哀しみを
抱き重ねる 松島
私たちもまた
あの頃 思いもしなかった
可笑しみと哀しみを抱き
毎日を 送っている
時折 ふと思い返す
遥か遠い 松島の風景
絶景の海 牡蠣が抱く真珠のような
小さいけれど 甘いあの煌めき
胸の奥 今日も抱きしめて