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スレッドNo.1253

感想と評 12/16~12/19 ご投稿分  三浦志郎  12/25

1 成城すそさん 「明晰」 12/17

比較的、抽象寄りに書かれたように思いますが、そんな中にあっても、前作と比べて視点がフォーカスされたように感じます。詩の主要部分(2~5連)は意外としっかりと場面メカニズムを捉えた上で、詩の言葉として再生産されています。すなわち2連……梅雨明け直後のいまだ湿気を帯びた地面。3連……後ろから太陽光が当たる。4連……影が前方に出来る。このリアルさが詩的に翻訳されている。これでいいと思います。これらのことが夢の中で起こっているさまが詩として趣き深いのです。最後の1行はテンションであり、刺激であり謎である、そんな気がします。終連とタイトルが、この詩の中身とは最も遠いのですが、だからこそ、僕はこれらに現代詩的な肌触りを感じているのです。前回から進んで一歩半前を。こうやってご自分のスタンダードレベルを掴んでいきましょう。

アフターアワーズ。
この詩について、ちょっと心配なことを、追加として欄外に書いておきます。この詩に出て来る全情景が夢の中なのか、それだと問題ないのですが、それとも「ゆめうつつ」というように「うつつ」の部分もあるのか、詩をリアル性に近寄せて解釈したい人は、そのあたりの“混ざり具合”を気にする人はいるかもしれないです。今すぐにではありませんが、頭の隅にでも留め置かれるといいと思います。


2 理蝶さん 「還る」 12/17

多分、この人は死にに行くんだと思う、海に。投身か、はたまた入水か。そこまで行かずとも、彼女の今までの間違った考えや悔いや哀しみのようなものを海に捨てに来たのかもしれない。その過程であり、心理の詩と見ました。1点だけ。なんでここで「猿」が出て来るんだろう?ここだけムード的にヘンです。何かと差し替えたほうがいいと思います。車を乗り捨てたシーンの書き方はとても印象に残ります。
ちょっとした物語性もあり、いいですね。語り手設置が利いているのだと思います。後は全く問題ありません。情景や心理が通過していく、その書き方、そこに差し入れていく物語性など、小説を読むような気分で読みました。詩的筆力あり。しかるべき領域に行っている感があります。
この詩は散文詩型でも書いてみてストックしておくことをお勧めします。そういった詩です。上席佳作を。


3 白猫の夜さん 「こころねの墓場」 12/18

「2・理蝶さん」と同様、この詩にも死の影が迫っています。前作にも翳りはありましたが、今作はそれを通り越して、絶望ということかもしれない。その結果としての行為が意識にちらつくかのようです。絶望を淡々と他者的に書くことは、ある意味、恐ろしいことだと思います。もちろんこれは少量の幻想味を帯びた創作でしょう。もしかすると、この詩のリアルは猫だけなのかもしれない。それも「沈める」「殺める」というギリギリのラインに立った、ナイフエッジのような、逆説的な愛情なのかもしれない、そんなことを考えていました。タイトルはこの詩の為に、さらに練ったほうがいいと思いました。今回から評価ですが、余力を見て佳作二歩前で


4 エイジさん 「木枯らしの舞う頃」 12/18

「待つ」―人間・動物問わず、生あるものに課せられたこの時間行為は何とも言い難いものがありますね。ここでの「待つ」は「冬・小雪・木枯らし」等―明快ですね。いっぽうの「あと十年待つ」は次連群の「苦闘しながら書く」といった主旨に係ってくるものでしょう。これらふたつの「待ち」の関係性・整合性が今ひとつ、僕には見えてこなかったということがあります。「君の苦闘」ぶりを冬の到来になぞらえたものか、どうか、わずかに、そういった推測は成り立つのですが。そう考えれば、それほど気に病むことはないのですが。次に別系統のことを書きます。

報われることはなくとも
まず君は君のために書くんだ
よければ僕にも見せてくれ

久しぶりに、これを本区間フレーズ大賞と致します。これこそが文芸を含めた芸術初動期の正しい姿であります!感動しております!「MY DEAR」の精神にも繋がるはずです。他のかたにも味読して頂きたい。前半書いたように、若干引っかかる点もあったのですが、本作品、この名句によって甘め佳作まで引き上げられます。

アフターアワーズ。
文中「~ならないね」「綴っているね」の語りニュアンスも好きです、ハイ。


5 荻座 利守さん 「千紫万紅」 12/18

はい、この言葉も調べました。まずまず「百花繚乱」と同義に理解しています。
まず、この詩は場面の全てが夢ということで統一されているのがいいと思います。その上での思念ということです。4連冒頭の「なぜだかわからないが」は夢の中なので、言わでものことで、削除でいいでしょう。6連からが詩の本旨でしょう。その考えがちょっとおもしろい(=斬新、興味深い)。人間の喜びや悲しみを(積極的に)吸い取って、花を色をつけ成長し生きていく、といったものです。
普通は(人→花)なんですが、この詩の指向性は(花→人)。そこがユニークさであるわけです。
たとえば、花を愛する人に応えるように色づき寄り添う。ヘンな例ですが、愛犬家や飼い主に犬はなつく。同様の作用があるのかもしれません。花にもそんな相互作用があると……。なるほど「祝う、贈る、弔う」時、花は常に在り寄り添います。広義的にカッコよく言うと「花、常に人と共に在り、その生死と共に在り」といったところでしょうか。美しい考え方でした。佳作を。


6 ゆきさん 「初雪」 12/18

ゆきさんの「初雪」。情景にしろ、思いにしろ、特に奇を衒うでもなく、さほどのトピックも設けず、ただ素直に淡々と書かれただろう点に思いを馳せたいと思っています。平易がそのまま美しさに結晶したような、そんな感慨を持っています。

今夜は初雪が降るらしい

誰でもが書けるフレーズですが、僕にはこの詩において独特の磁場を持っているように響くのです。
その点、ちょっと不思議な気がします。それに連なる想い出も美しい。この詩の美しさ―行為から暗示させる心のことです―は、やはり終わり2連にあるでしょう。ここで2つのことを記しておきたいと思います。まず、「初〇〇」というのは、たいていめでたく明るいものが多いのですが、「初雪」とはどういったものか?たとえば、この詩では「寂しさだけが残った」とあります。なんとなくその感情はわかる気がするのですが、雪と共に日常を暮らす地域の方々にとってはどのようなものであるのか、考える契機を与えてくれる点です。
次に技術的なことです。僕はどうしてもこの詩はを女性的イメージで読んでしまって、「僕」という主体がちょっと浮いた感じに思えました。「わたし」でもいいかな?と思ったしだいです。もちろん、ゆきさんの立場を尊重すべきだし、趣味の領域なので、聞き流してもらって結構です。甘め佳作を。


7 大杉 司さん 「生じる齟齬」 12/18

前作と並んで日常を切り取り、その時々の自分なりの心理、結論を導くかのようなスタイルを取っています。今回はテーマとしては至近距離の詩。場面としての会話の中。アプローチとしては現象をサラリと書く、といったスタンスです。もちろんこれもありですが、いっぽうで、とことん掘り下げて書く方法は詩をより濃く深くすることでしょう。恐ろしく図式化してしまうと「原因―(結果)―対策」なわけですが、この作品で言うと、前者は「分かり合えないから」。後者は「考えて話そう」になるわけですが、もし掘り下げるならば、このあたりが糸口になりそうです。いっぽうで「齟齬」を調べると「物事が上手く嚙み合わない、食い違うこと、行き違い」とあります。これも味読し思考するとヒントとして援用できそうです。僕の場合だと「立場(≒その人の全属性)の違いから考えていきそうな気がします。ゆっくりと、そういったアプローチも加味されればいいと思います。あせる必要は全然ありません。評価の始めですので佳作二歩前で、これもあせる必要は全然ありません。


8 アイボリーさん 「聲」 12/19 初めてのかたなので、今回は感想のみ書かせて頂きます。

よろしくお願い致します。なかなか上手いかたですね。軽快な語り口に可愛らしさがあり、詩情も滲み出ています。「今日が無事に~」から「恥ずかしいの」までが特に好きです。旧漢字を何故使ったかは謎ですね。「川崎さん家」はケッサクですね(笑)。最後は詩情・余情をもって静かに終わっています。そこで、1点だけ言うと、「消える」「消えてゆく」―同意味が重複するのを避けたいです。参考例ですが―。

蠢いては何処かへ行ってしまう
外界の聲も消えてゆく夜

など、考えてみてください。推敲という事をお勧めしておきます。また書いてみてください。


9 暗沢さん 「がらんどう」 12/19

まずタイトルです。この言葉久しぶりに聞いて、それだけで趣、充分です。当然のように「広々として何もない様子」を指しますが、語源は「伽藍堂」で「伽藍堂のように広々」だそうです。発音も意味をイメージする感じで不思議なものですね。さて、内容です。中身はがらんどうの対極、良いものが詰まっています。まずは初連、2連で場が設定されます。寒風の仲、雪もちらつき始めました。
2連終わり2行によって、夏秋とはまるで違う様相を提示し、次への導入も兼ねています。いい流れですね。そして3連、ここからが本旨。冬の空を虚しい吹き抜け(≒がらんどう)と見る。この詩の骨子であり、ユニークさの代表であります。空をがらんどうとイメージする詩に、僕は初めて出会った気がします。大変いいです。海月は普通に考えると雲のことかと思われます。雪を曖昧としたのも注目できるでしょう。最後は見上げた対象への沈鬱感でしょうか。対象のフィーリングとしては、重い印象なのですが、文体に切れ味があり意志力を感じました。さて、評価ですが、前回はパス。ほぼ初めての評価と言っていいと思います。佳作一歩半前で行きたいと思います。


10 朝霧綾めさん 「言霊」 12/19

上席佳作。言葉とは便利なもので「話す・書く」で「音声・視覚」両方を満たしてくれる。今回は、それぞれ後者の佇まいのことです。
前回の評で、詩人は“見えないものを見る”的なことを書いたのですが、本作はそのテーマに果敢に挑んでいる気がします。しかも言霊を見てみたいという。そのユニーク度は、今回、「5 荻座利守さん」 「9 暗沢さん」と同列か?詩の初期段階で概観的な場面と希望をクリアーして、詩は具体例に向かいます。此処こそがこの詩の骨子。ご自分の感性・言葉で対象をひも解いてくれています。微笑ましいのは、ご自分のペンネームに話が及ぶくだりです。ここは同時に自分自身への問いかけであり、とりわけ、終連はこれからの「書く」ことへの気持ちの高揚と見るべきでしょう。
その志や、諒としたいと思います。

アフターアワーズ。
ちょっと調べましたが、外国語にもこういった思想はあるようです。しかし、日本語はその度合いが違う、そう思っています。日本語・日本人の繊細さ、言語への信頼度が生み出した、多分に風土的な思想と感じております。英語はかっこよく、フランス語はソフトでオシャレだけど、奥の深さはやはり日本語でしょう。ちなみに「朝霧綾め」さんの言霊ですか~。そうですねえ、まず「朝霧」という儚いながらも清新の気。「彩」でなく「綾」に典雅さを見ます。案外「め」がポイント。あえて、ひらがなにしたのが、この名前の“謎”を解くカギを握っているように思います。


評のおわりに。

いつものことですが、今回はとりわけ心にヒットした作品が多かった気がします。
おそらく、抽象、具象、暗示、イメージがジャストで来た印象がありました。音楽で言うと、
ビートがドンピシャ合ってグルーブした感じかな?特に重大な指摘もなく学ぶところも多々あり。
当区間の今年フィナーレを飾るにふさわしいものでした。ありがとうございました。では、また、来年。

編集・削除(編集済: 2022年12月25日 06:20)

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