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スレッドNo.1270

疾風(しっぷう)  江里川 丘砥

高いところから落ちたぼくは
気がつくと
おぼろげな視界で傷だらけのまま
大きな白いペガサスの背中に
あお向けに担がれていた

いつも見上げていた大空を
ペガサスに乗って飛んでいく

ぼろぼろの服よりも擦り切れた心を
どこか遠くへ連れて行ってくれるかい
ぼくはただ
この世での終わりが欲しかっただけなんだ

冷たい空気を切り裂くように飛んでいくペガサス
その白い翼は時空が歪んでいるかのように
大きくゆっくりと羽ばたき
その隙間から見える街並みは
もはや現実ではないように思えた

ぼくは死んだのかな
それとも夢を見ているのかな

すべての感覚はどこかふわふわしていて 
痛みも悲しみも苦しみも
一枚のベールで隔てられているように
どこか他人事なんだ

ペガサスの背で疾風のように飛びながら
ぼくの身体は
まるで実態がなくなっていくように
少しずつ剥がれては
風に溶けていく
意識もおぼろげになっていく

深い眠りに落ちたあと
もしもあの世で目覚めたとしても
自分のことは
どこか借り物だったような気持ちで
思い出すだけなのだろう

この世に生きていたということ
遠い空から眺めるとき
ぼくは一瞬に吹いた風だった

もっと自由に吹いてもよかった
風だった
だけど精一杯に吹いていた
風だった


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雨音様のご担当期間に投稿いたしますのは初めてになります。
はじめまして、江里川 丘砥(エリカワオト)と申します。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

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