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スレッドNo.1273

涙と袖  朝霧綾め

泣いた
ちょっと悔しいことがあったから

わたしは泣き虫だ

保育園のとき
ドッチボールでただひとり残って
逃げるのは得意だけど
投げるのは苦手なわたしは
ボールを取ろうともせず
逃げ続けたら
しばらくしてやっぱり 当てられちゃった
その時も泣いた
目をごしごしとこすった
ハンカチのピンク色を覚えている

小学校のとき
得意なはずの教科の
テストの点数が悪かった
悔しかった
好奇心で 隣の仲のいい子の答案を
盗みみたら
わたしよりずっと高い点数で
その時も小さく泣いた
瞬きの回数が増えたのが わからないように
下を向いて
こっそり人差し指で涙をぬぐった


泣き虫の涙は
あんまりきれいじゃない
涙というものは
ふだん元気で明るい子が
ほろりと零すから美しいのに

それでも泣いてしまう
にじむ涙を
袖口で ごしごしとこする
目が赤くなってしまうのは知ってるけど
十年以上続けたやり方は変えられない

それに
昔の人だって袖で涙をふいていた
 あなたを恨む涙に
 袖が濡れて乾くひまもないのよ
という百人一首があった気がする
わたしのやり方は正式 伝統派
千年前にタイムワープして
ロマンチックに泣いてみる

涙でほんの少しずつ重たくなっていく
美しい柄をした着物の袖

ほんとうは
自分の涙が
ちょっと好きだ

泣いてるわたし、かわいいなあ
だから嬉しくなって
ようやくきれいにみえた涙も 
止まってしまう

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