涙と袖 朝霧綾め
泣いた
ちょっと悔しいことがあったから
わたしは泣き虫だ
保育園のとき
ドッチボールでただひとり残って
逃げるのは得意だけど
投げるのは苦手なわたしは
ボールを取ろうともせず
逃げ続けたら
しばらくしてやっぱり 当てられちゃった
その時も泣いた
目をごしごしとこすった
ハンカチのピンク色を覚えている
小学校のとき
得意なはずの教科の
テストの点数が悪かった
悔しかった
好奇心で 隣の仲のいい子の答案を
盗みみたら
わたしよりずっと高い点数で
その時も小さく泣いた
瞬きの回数が増えたのが わからないように
下を向いて
こっそり人差し指で涙をぬぐった
泣き虫の涙は
あんまりきれいじゃない
涙というものは
ふだん元気で明るい子が
ほろりと零すから美しいのに
それでも泣いてしまう
にじむ涙を
袖口で ごしごしとこする
目が赤くなってしまうのは知ってるけど
十年以上続けたやり方は変えられない
それに
昔の人だって袖で涙をふいていた
あなたを恨む涙に
袖が濡れて乾くひまもないのよ
という百人一首があった気がする
わたしのやり方は正式 伝統派
千年前にタイムワープして
ロマンチックに泣いてみる
涙でほんの少しずつ重たくなっていく
美しい柄をした着物の袖
ほんとうは
自分の涙が
ちょっと好きだ
泣いてるわたし、かわいいなあ
だから嬉しくなって
ようやくきれいにみえた涙も
止まってしまう