MENU
844,491

スレッドNo.1314

フライパンを火にかけること  朝霧綾め

フライパンを火にかけること
それは
すべてのお料理のはじまり

そのあと
バターを溶かすか
オリーブオイルを垂らすかは
自分で決められる

玉ねぎを炒めるか
スクランブルエッグを作るかも
私の自由

メソポタミアの宮廷料理人も
アメリカ貴族の台所女も
イタリアンレストランの有名シェフも
ある若い主婦も
手には必ず
フライパンが握りしめられていた

人類のお料理の歴史の真ん中に
この愛らしい単純な道具があった


いま
二十一世紀の私が
フライパンを火にかける
ガスコンロのボタンを押すと
 ボウッ
はじまりの音
青い炎が飛び出す

ようし
腕まくり
エプロンの紐を結びなおす

お料理をするとき
私はいつも
おいしいものを作ろうと緊張する
見えないものと戦っている

みんな戦ってきたのだ
お客さんだったり 
主だったり
子供たちだったりを
喜ばせようと
フライパンの歴史は戦いの歴史

私のお料理で
大きな大きな
人類みんなのフライパンに
また一つ 錆と汚れがくわわる
戦いの美しい傷ができる

中火の青い炎
そろそろあったまってきたかな
今日は何を作ろうか

フライパンを火にかけること
それは
すべてのお料理のはじまり

編集・削除(未編集)

ロケットBBS

Page Top